空想東京百景〈夜話〉Night tale

ゆずはらとしゆき

『まえがき/Preface』

File-01『作者による、本件の経緯報告』

 はじめての方は、はじめまして。

 ご無沙汰だった方は、お久しぶりです。

 4年ぶりの『空想東京百景』くうそうとうきょうひゃっけいシリーズ新作にして、新シリーズとなる『メトロポリス探偵社~空想東京百景〈令〉』は、慣れ親しんだ〈箱〉を離れ、新しく創刊したライト文芸レーベル「LINE文庫」からの刊行と「LINEノベル」での公式連載という〈新しい形〉での発信になりました。


 『空想東京百景』旧シリーズの1巻が2008年、〈V2〉〈V3〉〈異聞〉3冊連続刊行が2015年でしたから、陰で「7年に一度だけ狂い咲く」とかなんとか言われておりましたが、今回は4年ぶりの刊行です(胸を張るな)。

 作家デビュー20年目で10冊目、という記念の一冊でもあります(寡作すぎるだろ)。

 もちろん、toi8さんのイラストレーションと、ヨーヨーラランデーズさんのブックデザインもそのままです。


  †††

 

 さて、作品の舞台はやっぱり、猥雑でオカルトパンクなもうひとつの〈東京〉トーキョーですが、時代は東京オリンピック前夜の昭和しょうわ30年代から、東京オリンピック前夜の2019年/令和れいわ元年……現在進行形リアルタイムな物語になりました。


 登場人物も一気に世代交代しまして、ハードボイルドな世界観にラブコメが紛れ込んでおりますが、本作は「もうひとつの〈東京〉トーキョーにまつわる、いくつかの謎を解き明かす、〈完結篇〉としての新作」です。


 というか、旧シリーズは繰り返しの円環の中、行きつ戻りつのゆりかご――昭和20年8月10日から昭和39年10月10日の19年間を、永遠に行ったり来たりし続ける〈箱〉の中の物語ですので、〈箱〉の謎を解き明かすには、外から覗き込む必要があったのですね。


 あと、デビュー直後に漫画原作とかで書きすぎた反動で書けなくなっていたんですが、「ラブコメと和解せよ」という神の啓示がありまして。

 なので、『無影燈』とか『阿寒に果つ』とか書いていた作家が『失楽園』を書いたようなものだと思ってください。


 まァ、旧シリーズの〈完結篇〉なので、基本的には1冊でサクッと終わる物語ですが、新シリーズでもありますので、続くかも知れません。


  †††


 今回の新作の原型になった〈平成へいせい篇〉プロットは、2008年の『空想東京百景』1巻刊行後、〈箱〉ではないライトノベルレーベルへ提出していました。

 「探偵活劇×ラブコメ」という基本コンセプトで。

 同時に、ファ(中略)ではない講談社の雑誌で、『空想東京百景』シリーズの新作連載もやっていたんですが、休刊で中断した直後、かなりヤバめの大病を患いまして。

 半年ほどの療養から復帰したら、〈箱〉ではないレーベルの担当さんが辞めておりました。


 なので、珍しく『空想東京百景』シリーズではない小説『雲形くもがた三角定規さんかくじょうぎ』『咎人とがひとほし』を書きながら、中断した新作連載の〈V2〉〈V3〉単行本化、漫画版〈異聞〉の連載などを進めておりました。

 結果、2015年の連続刊行になりましたが、その直後、〈箱〉は実質的休止に。

 しょうがないので別の仕事をするか、ということで書いていたら、今度は3件連続でお蔵入りという、なかなかのベリーハードモードで。

 我ながら、どうやって暮らしていたんでしょうね。


  †††


 LINE文庫さんからお話をいただいたのは2017年の年末でしたが、「もうひとつの〈東京〉トーキョーにまつわる、いくつかの謎を解き明かす、〈完結篇〉としての新作」になりましたので、〈平成へいせい篇〉プロットは破棄し、改めて〈新元号篇〉として作り直しました。

 なお、いくつかの「新しいジャンル」のプロットが没になった結果、元の「探偵活劇×ラブコメ」という基本コンセプトに戻っています。


 あと、新しいヒロイン・九葉祀くようまつりのキャラクターは、ずっと同じですね。黒髪ロングで目つきの悪い小悪魔系眼鏡っ娘。

 まァ、彼女ありきの現代版ですので。

 高橋葉介たかはしようすけ先生の『夢幻紳士むげんしんし』で喩えると、旧シリーズは〈怪奇篇〉や〈夢幻外伝篇〉で、今回の新作は〈冒険活劇篇〉みたいな感じでしょうか。


  †††


 話を戻しますと、〈新元号篇〉なので『空想東京百景〈れい〉』のタイトルは改元後に決定しました。


 作中の時間も改元直後――5月10日から始まっていますから、書いているうちに現実の状況がどんどん割り込んできて、無茶苦茶なことになりました。

 でも、旧シリーズも昭和30年代当時の状況や戦後史をわざわざ調べて書いていましたから、よくよく考えると、そのあたりの手間暇はあんまり変わらないですね。


  †††


 そういう経緯ですので、いきなり『メトロポリス探偵社~空想東京百景〈令〉』を読んだ方は、全体の筋はまァ分かるとしても、細かい設定や小ネタがよう分からん、と仰るかも知れません。

 新しいレーベルでの新シリーズで、初見のひとにも分かりやすくしましょう、ということで、ストーリー自体は完全に独立しておりますが、旧シリーズの〈完結篇〉でもありますから、懐かしいキャラクターや設定もちょくちょく出てきます。


 というか、初見のひとが「なんだこりゃ」と思う事象は、すべて旧シリーズ4冊の何処かで言及されております。

 ようは1冊でサクッと終わるため、ちょくちょく端折ったのですね。ひどいことするね。


 ちなみに、『空想東京百景』旧シリーズの正篇は、講談社さんから小説全3巻と、一迅社さんから漫画〈異聞〉全1巻が単行本化されておりますが、小説1巻を買った方でも続編の〈V2〉〈V3〉が出ていたことを知らない方がけっこういるみたいで。

 レーベル休止直前の刊行で、紙での入手はもともと困難でしたが、電子書籍が販売されておりますので、未見の方は是非ともよろしくお願いいたします。


  †††


 とはいえ、ただ、旧シリーズの単行本を読んでくれ、というのも不親切ですので、公式連載の『メトロポリス探偵社~空想東京百景〈令〉』とは別に、このアカウントでは旧シリーズとの繋がりを解説してみようか、と思ったのです。


 そこで、「総括的コラージュ」と銘打って、新作や未発表の小説、設定資料、2001年(!)に始まった旧シリーズから現在へ至るまでの思い出しエッセイなどを交え、ずいぶん長いこと書き続けてきた物語の解説――〈暗号〉解読表を作ってみようか、と。


 口上はいささか大仰ですが、たいしたものではありません。

 言い換えれば、よく20年近くもこんな青臭い小説を書き続けてきたなー、とも思うんですが、商業的な事情に左右されず、それでいて「商業ベースで発表した作品を補完する場所」として、特に終わりは決めず、のんびり続けようかと思っております。


 ちなみに、若干のネタバレはありますので、そのあたりを気にされる方は『メトロポリス探偵社~空想東京百景〈令〉』を読了してからのほうが良いかも知れません。


  †††


 そして、最初の〈夜話やわ〉は、旧シリーズの新作短篇『かがみなかにあるごとく/Profit in a mirror』です。

 『空想東京百景』1巻に入らなかった習作を改めて新作小説として書き直したのですが、『メトロポリス探偵社~空想東京百景〈令〉』にも登場する「場所」にまつわる物語です。


 それでは、ゆるりとお愉しみくださいませ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る