第44話 トラリオン

胸よりやや下、おへその上あたり。

そこが、最も……魂へのアクセスをしやすい場所。

ルシフは、そこに手を伸ばし。


……アンナは偽名……工作員……王族……


情報を読み出していく。

人は、隠すべき事を心得ていて、常に気をつけている。

つまり、そこを集中的に読めば、大体の事は分かるのだ。


隣国、ローテツの第17王女、リリウム=リズ=ローテツ。

秘蹟も第参階位サードまで扱うのか。

これはちょっと予想外。

王女リリーを殺し、混乱に陥れ。

同時に、賤混者ハーフ純人間ピュアの争いを煽り、国力を低下させ……まあ、純軍事的に見て、賤混者ハーフが軍にいるロマリアは、かなり強い。

その強みを消したいのだろう。

純粋に、賤混者ハーフへの軽蔑と警戒もある様だが。

なら、何の備えも無く賤混者ハーフに喧嘩売るなよ。

だから死ぬんだぞ?


同盟国、3カ国の合同作戦……うわ、トラリオン将軍まで関わっているのかよ。

ルシフは、状況の深刻さに、暗澹たる気持ちになる。


トラリオン将軍……5年程前か。

祖母のもとを訪れた際、稽古をつけて貰い……完敗した。

ルシフが必死に絶対守護イージスを覚えたのは、この時の敗北があったからだ。


尚、ルシフは1対1で負けたが、絶対守護イージスを使用したトラリオン将軍が攻撃を防ぎ、その間に周囲の者が敵を倒す、それが本来の戦い方らしい。


まあ……とりあえず。


改竄。


そうだな……リリーとの真の友情に気付き、リリーを護る為に全力を尽くす。

持っている情報は全てリリーに提供する……こんなところか。


……あとは……


ルシフの魂の改竄は、1つ制約がある。

必ず、ルシフに対する恋心を埋め込まなくてはならない。

この条件が付く理由……おそらく、親は、インキュバスかサキュバスなのだろう。

共に、立派な下位悪魔レッサーデーモン

無論、純人間ピュアがまともに戦って良い存在ではない。


面倒なので、非常に奥手で、ルシフに想いを告げるくらいなら死を選ぶとか……そんな感じの後ろ向きさの性格も付与。

これで、ルシフに実害は及ばないだろう。


かくり


虚ろな目で直立していた人形アンナが、膝をつき、目を閉じる。

あとはまあ……しばらくすれば魂も馴染むだろう。


得た情報を、ルシフから流すリスクを取る必要は無い。

コレ本人が、リリーに伝える筈だ。


ともかく……


トラリオン将軍の動向を知りたかった。


--


「ディアナさん……手を繋ぐ必要は無いと思うのですが……」


「ほら……いつ刺客が来るかも分からないので……危険ですので……」


「いや……その……これだとまるで恋人同士の様に……」


「こ……恋人同士……はい」


「いえ、はいでは無くて、ですね」


腕を組んできた?!


分からない……まさか、発作?

しかし……


リブラは、困惑する。

ディアナの手が……腕が……別のものが……柔らかくて、温かくて、非常に……刺激的なのだ。


貴方が悪いんですよ。


リブラはそう言い聞かせると、素直に今の状況を堪能する事にした。


もし叶うのであれば、こうやって彼女と一緒に……何気無い日常をすごしたい。

いや……その相手がディアナであれば、この上無く……


だが、それが永く続かない事も……識っていた。

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