第39話 国王の進退表明

「王女様、王になられた暁には、是非、賤混者ハーフへの参政権を」

「王女様、王になられた暁には、是非、賤混者ハーフの職業選択差別撤廃を」


「ええ、王になったら、検討すると約束するわ」


リリーは笑顔で応える。


最近、クラテス王が隠居を仄めかし始めたせいもあるのだろうか。

取り入ろうとする連中、自陣営に引き込もうとする連中……そういった連中が増えていた。


リリーは、その時その時で適当に応えるようにしている。

検討するとしか言っていないし……そもそも、王になる気が無いのだ。

卒業したら、ルシフのお嫁さんになると決めている。

だから、何と応えても絶対に空手形なのである。


ルシフが王になりたいというなら、全力で補佐するが……ルシフは実家の薬屋を継ぎたいと言っている。

なら、自分がやるべき事は、薬の勉強や、経営の勉強……王様なんて、リブラにでも押しつければ良い筈だ。

ディアナが最近雰囲気を出している気がするし……ディアナはあれで貴族、きっと2人が結婚すれば、リブラが王様もそこまで非現実的な話では無い筈。


「王女様、賤混者ハーフの権利を無限に認めるのは危険です……もう少し制限する法律を整えるべきです」


「それはどうかと思うわね」


かといって、全ての事に肯定を返していれば、ばれてしまう。

なので、何回かに一度、それっぽく否定する様にしている。


「王女様、抱負を御願いします」


「まだこれは公にはできないのだけど……王貴血者アーク純人間ピュア賤混者ハーフの垣根の撤廃ね」


史学部の研究テーマは、一般には秘密だ。

だが、今話しかけてきたのは、高位の貴族。

少しくらい情報をリークしても、みんな許してくれるだろう。


実は、リリーのこの適当な行動が、事態を想像もできない方向に動かすのだが……賢人あらざるリリーには、知る由も無い事であった。


リリーが上の空なのは、理由がある。


反省して、後悔しているのだ。


国王の進退表明……おそらく……あれが関係している。


クラテスとの茶飲み話の際。

この前史学部で建てた仮説を、聞かせてみたのだ。


効果は劇的だった。


目を見開き、口をぱくぱくさせ、呆然として……

一気に何十も歳をとった様な感じとなり……無言で退出した。

やり過ぎた。


リリーは自室に戻ると、深く溜息をついた。


--


「会長──いえ、リリー王女、学友の立場を利用して聞くのは忍びないのですが」


「どうしたの、リブラ?私と貴方の仲じゃない。良いわよ、何でも聞いて」


「では……国王になった暁には、賤混者ハーフに対する制限を完全撤廃、平等を実現……そんな所信表明をしたという噂が出回っているのですが……事実では無いですよね?」

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