第36話 うさぎのいるいえ

「やー、スピカの家、久しぶりだなー」


「もう……いつでも遊びに来て良いって言ってるのに」


ぷくー


レオの言葉に、スピカが頬を膨らます。


「此処です」


比較的大きめの家、それなりに裕福なのだろうか。

ルシフは、視線を巡らせる。


何の変哲も無い家だが……ひっそりと、防御術式は編まれている。

招かれずに侵入するのは、ルシフでも骨が折れるかも知れない。

恐らく、見えている結界以上に、何かが隠れている。


「おやじさんには既に連絡済なのか?」


「うん、さっき連絡しておいたよ」


男親……ああ、そういう事か。

ルシフは納得する。


養子。


賤混者ハーフに一定の権利が認められるこの国特有のことだが。

賤混者ハーフを養子にする家庭が時々いるのだ。

普通は、何か目的があって……例えば、強い力を利用するとか、愛でるとか……だが、稀に憐憫の情から引き取る者もいる。

賤混者ハーフでも、幸せな家庭を持つ可能性は有るのだ。


別の可能性もある。


一世よりも力は落ちるが……賤混者ハーフ純人間ピュアの子供も、賤混者ハーフとなる。

ほぼ純人間ピュアと変わらない能力、見た目になったりもする。


家庭事情を聞くのは禁忌タブー

間違っても、聞いたりはしない。


キイ……


スピカがドアを開け──同時に、結界に穴が生じる。

招かれれば入れる。

無論、閉じ込められるリスクはあるが。


ルシフは特に警戒はせず、家の中に入ることにした。


ふんふん……


入り口には兎がいて、みんなの匂いを嗅いでいる。


「兎……ペットか?可愛いな」


ルシフはしゃがみ、兎の頭を撫でる。

レオが、


「すみません、お邪魔します」


兎に頭を下げる。


???


他の面子の頭に浮かぶ、疑問符。


奥から、好青年、と言った感じの男が出てきて、


「こんにちは、良く来たね。スピカがレオちゃん以外の友人を連れてくるなんて、珍しい」


恐らく、スピカの義父。

義母は……いないのだろうか?


「ご無沙汰しています」


「良く来たね、レオちゃん。さあ、みんなも奥へ。簡単なおやつも用意したよ」


スピカの父親が微笑み。


ぴょん


兎が凄い跳躍力で、スピカの父親の肩に乗り、


ふんふん


スピカに向かって鼻をひくひくさせる。


「え、お母さん、やだ、そういうのじゃ無いからね?!」


スピカが叫ぶ。


……?!


お母さん……?


きょとん、とする一同に、レオが、


「こちらが、スピカの親父さん……そして、こちらがスピカのお母さんだ」


そう言い、兎を指し示す。


……いや、確かに、スピカは人間と兎の混血だが……

まさかの、母親本人?!

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