第29話 悲劇の村

「クラテス様ぁー!」


「ふむ、ルピナスに……その学友かな?」


クラテスが、柔和な笑みでルピナス達を迎える。


動じてない……だと……

シリウスは戦慄する。

やはり……大物。


是非とも、この様な人物に仕えたいものだ。

憧れにも近い感情が、沸き起こる。


にしても。


事情を知っている人に聞くのが早い。

ルピナスのその宣言が……まさか、クラテス王本人とは……


普通に考えて駄目である。

普通に考えなくても駄目である。


恐れ多いとかいう以前に、そもそも、隠蔽を疑われている第一容疑者である。

探っている事がばれる事すら避けたいのに……


ルピナスは跪き、


「シリウスと申します。お声掛け頂き、恐悦至極に存じます」


敵意は無い、そう、心の中で叫ぶ。


「面を上げよ。ルピナスの学友にそんな態度をとられては、居心地が悪い事この上ないわい」


クラテスがかかかと笑う。

シリウスは顔を上げ、


さて……ルピナス、どうでるのだ?

まさか直球では聞くまいが……


「クラテス様、本日は聞きたい事があって参りました」


「ほう、申してみよ」


クラテスが嬉しそうに応じる。


「はい……勇者様の本当の死因は、一体何なのでしょうか?」


ぐぼぅ


クラテスが目を見開き、息の塊を吐く。


「ぐほ……げほげほ……ごほ……」


「クラテス様?!大丈夫ですか?!」


ルピナスが慌てて駆け寄り、背中をさする。


本当だっただとおおおお?!


シリウスは、表情に出さないように気をつけつつ、心の中で絶叫する。

あの王女、嘘をついている臭いはしなかったが……さりとて、事実とも思っていなかった。

やはり、奴は剛の者……


「うむ……ちょっと……飲んでいた紅茶が思ったよりスパイシーでな……」


そなたは紅茶を飲んでおらん!!


シリウスが再度、心の中でつっこむ。


「そうですか……紅茶がスパイシーなら仕方が無いですね……」


ルピナスの演技力凄すぎる?!

シリウスは戦慄する。


ルピナスの事を舐めていた訳では無い。

その知略は、万の兵器に勝る……掛け値無い天才とは思っていたが。

何という演技、何という胆力。

王の言い訳にもならない戯言を、信じ切っている。


「ルピナスよ」


クラテスの目が光る。


「リオンは……魔王と引き分けたのだ。相討ち……それが死因だ。決して、無事に魔王城を出立など、しておらぬ」


黒だ!

勇者が魔王に勝ち、生き残ったのは間違い無い。

そして、それを隠蔽したのが王……何故……


「でも……ルシフ様が……」


「ルシフ……魔女アカネア様のお弟子さんだったか……ふむ……そうか……」


何か悟った?!

大丈夫だろうか……いや、魔女アカネアはこの国にとって無視できない存在、いくらクラテス王と言えども、正当な理由なく手出しはできない……

シリウスの心臓がばくばく鳴る。


「クラテス様?」


「いや、何でも無い。ともかく……リオンの死因は、魔王と相討ちになった事だ。サマイルの村は関係ない」


情報引き出した?!

サマイルの村……?

魔王軍残党により、一夜にして滅びた悲劇の村……?

何故その名が……


「なるほど、分かりました。ですよね、勇者様の死因は、有名ですものね」


ルピナスが笑顔で頷く。

そこに、疑念の色は一切無い。


さて……俺は、無事この城から外に出られるのか?

シリウスは、訝しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る