第24話 本が好き

「すみません、ディアナさん。勝手に決めて」


解散後、ディアナとリブラは部室に残った。


「部活対抗戦への出場は、阻止したかったのです」


リブラが溜め息をつく。


「……そう言えば、そんな話も有りましたね。あれは不参加になったのでしょうか?」


「参加申込み期限はもうすぐ……それまで逃げ切れば」


「良かった……戦いは苦手なんです」


ディアナが、安堵の溜め息をつく。


「むしろ、イベントが盛り下がるのが懸念でした。武闘順位上位者が固まったチームがいて、誰がやる気になると言うのか」


「……盛り下がりますね」


ディアナが同意する。


「でも、テーマが危険で……心配です」


「そこは、会長に全責任を負わせますし……それに、あの方、嗅覚は鋭いので、案外」


「……まさか、本当に?」


「恐らく、国王陛下の動揺は、本当だろうね。ああ言う嘘はつかないお人だ」


「……勇者様……もし、隠された事実が有るのなら……」


ディアナが思いを馳せる。


「興味深いね」


リブラが微笑を浮かべる。


ディアナはしばし、思索にふけった後、リブラの存在に気付き、


「すみません、リブラさん。思わず、自分の世界に」


「いえ、お気になさらず。ここの雰囲気は、心地良い。気が休まります」


ディアナは、頷き、


「私も、この部屋は好きです。空気も、光量も、本の匂いも、存在感も」


目を閉じ、


「リブラさんも、いい匂いがします。優しい……木の匂い」


「そんな事を言われたのは初めてですよ」


リブラは、温かい気持ちになる。


「そう言えば……王女殿下が仰ってた、あの話……ルシフさんとの事、本当でしょうか。以前、王女殿下から相談された時にも、匂わせてました……」


「ルシフも明確に否定しなかったから、事実かも知れない。でも、極めて危険だね。次期国王の話にもなるけど……そもそも、王貴血者アーク賤混者ハーフでは、血が反発する……」


リブラは、顔を曇らせる。


「お二人共、神話に出てくるように美しい……お似合いのカップルだとは思うのですが、不安が大きいですよね」


「同姓から見ても、ルシフは美しい。学力も魔力も高く、武技も優れ──会長が惹かれたとしても、不思議は無いが……」


自分とは違って。

リブラは、抑えきれず、自嘲する。


肌に所々浮き出る、木の表皮。

大分抑えてはいるが、完全には消えない。

まあ、見た目で好感触を得た事は無い。

気味が悪い、それが自分でも思う感想だ。


ルシフの様に、完全に純人間ピュアと同じ見た目であれば、言わなければ分からない。

レオ、シリウス、スピカは、耳だけ魔物。

むしろ、魅力的ですらある。


リブラは、どちらかと言えば、魔物寄りの賤混者ハーフだ。

伴侶を探すなら純人間ピュアだが、まず芽はない。


「私は、本が好き、木が好き……だから、リブラさんの方が魅力的だと思います!」


ディアナが、リブラの目を見て言う。


優しい……温かいな。

リブラは思う。


「有難う。将来は、ディアナさんの様な女性を探す事にします」


リブラは微笑みを浮かべ、


「本当に凄く良い匂いだし……感触も……」


「?!」


しなり


ディアナはリブラに寄りかかると、肌に露出した樹に触れる。

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