第2話 賤混者
「俺の名は、ルシフ。大丈夫?」
「は、はい。有難う御座います。私は、リリーと申します」
「リリーか……可愛らしい名前だね。今の奴等はいったい?」
「私も分かりません。恐らく、盗賊か野党か……暗殺者か……お金で雇われたのでしょう。背後関係を聞きたかったのですが、もう無理でしょうね」
「ああ、殺しては不味かったのかな。すまないな」
「いえ、助かりました!ありがとうございます」
リリーは、ルシフを見上げ、
「ロマニア、ですよね。私もロマニアに戻る所でした。宜しければ一緒に行きませんか?」
「それは助かるよ。ずっと田舎の方に暮らしていたから、このあたりの地理には疎くて」
「田舎……ですか。普通の街であれば、街道が繋がっているので。街道から外れているという事は、小さな村とかでしょうか。一度街道に出れば、後は街道沿いに進むだけなので、そこまでが少し大変ですね……移動手段もなくなりましたし」
「ああ、馬車の馬も殺されてしまったからね」
リリーの案内で、街道に向かって歩き出す。
「ルシフさんは、何故王都に?」
「貴族の紹介で学園に通える事になってね。お婆さんが王都で仕事をして、貴族の方を治療したのだけど、それが凄く感謝されて。孫の話題になって、俺を学園に推薦してくれたらしいんだ」
「お婆さん、凄い薬師なのですね」
「薬師というか、魔女かな」
「魔女ですか?!」
魔女。
人の身にて魔導を極める道を棄て、悪魔と取引した者。
本来であれば、迫害されて然るべきでは有るが。
この国は、力に貪欲な国。
力ある者には、一定の権利を認める。
公職には近づけないものの、地方にて細々と暮らす事は認めているのだ。
……もっとも、ルシフの祖母、アカネアは、地元では領主よりも敬意を払われる存在ではあるが。
元々は、近くの深海の森にて君臨せし魔女。
国の方針の変更により、近くの村に移住してはや100年超。
今では、その地方に就任した領主は、アカネアに挨拶に参るのが慣例化している。
「魔女のお孫さん……まさか、魔術を?」
魔術。
人の身の最高峰、聖女や最高司祭、そして勇者……そういった存在が操る人智を超えた力、秘蹟。
その対極となる概念、本来は人の身では行使できないもの。
魔女は、悪魔と契約する事で、
その威力は、
ルシフは少し言い淀むと、
「魔術を使えると、目立つかな?」
「それは当然です!
ルシフは困った様に。
「それは困るな……俺の目的の為には、目立たず、程々の成績で、ひっそりと学園を卒業……そうで無くては困る。リリーさん、すまないが、学園で目立たない為、学生の基準、というものを教えてくれるかな?」
「基準……ですか。例えば、先程の剣技……あの剣技であれば、学園首席の剣技すら児戯、それだけでも頂点を取れるでしょうね。その上、魔術まで扱うとなれば……」
「あの程度の剣技すら駄目なのか……」
「むしろ、首席をとった方が早いのではないですか?」
ルシフは、リリーを見つめ、
「キミも気付いているだろう?俺は──人間ではない。ある程度までなら許容してもらえているが……基本的には人外だ。あまりにも圧倒的な力を振るえば、同じ人として見て貰えない」
ルシフは、
魔物の血が混じった存在。
国によっては、立派な討伐対象だ。
「……分かります」
「分かるのか?!」
あまりにも自然なリリーの同意に、ルシフはツッコミを入れた。
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