もう異世界はコリゴリだよ~
抜きあざらし
第1話 不幸な事故
俺の名前は
そんな俺は、不幸にもプレス機? 的なものに挟まれてミンチになってしまった。保守作業中にやってきた本社の視察団が、ロックボタンに貼り付けてあるガムテープを指摘した拍子に作動レバーを押してしまった……のだと思う。真相を確かめる前にハンバーグになってしまったので、音だけでしか状況がわからなかった。
そんな俺は今、こうして神の御前に居る。
「――というわけだ。そこでお主には任意の特典を与えようと思うのじゃが……」
おっと、回想してたら話が終わっていたぞ! なんのことだかわかんねえなこれ。
こうなったら聞いていた部分だけで他の文脈を推測するしか無い。大丈夫やればできる。俺は半分しか聞いていない社長の訓示でレポートを書いて部長に褒められたことがある。やればできる。
確か、最初に転生がどうのと言ってた。それから、任意の特典……なるほど。
「つまりな○う系ですか」
「ここでその名を口にするな!!」
文字通り雷が落ちた。神の雷である。知らない森が燃え盛る中、恐る恐る神様に視線を戻す。
「とはいえ、お主の認識は間違っておらん。都合のいい能力や特典が選り取り見取りなんじゃぞ。好きに選ぶといい」
「いや、最近のトレンドだと自由には選べないと思いますよ。ハズレを掴まされてから、努力とか運とか怨念とかで一発逆転するタイプが主流だって」
「お前が例えたんじゃろがい!!」
怖いなあ。更年期かな?
因みに描写し忘れていたが、この神様はロリババアタイプだ。
「ていうか神様もなろ……異世界転生とか見るんですね」
「暇なんじゃ。わらわは地上波アニメでしか見んがの」
だから認識が古いんだな。
「まあ、そんなことはどうだっていい。ほれ、後がつかえておる。早く選ばんかの」
「転生者ってそんなにたくさん居るんですか?」
「わらわは労災を司る神じゃからの」
邪神じゃねえか!!
「去年……いや一昨年の労災死亡者は九○九名(令和元年厚生労働省発表より)じゃから。まあ大雑把に計算すると一日に二人と少し死んでおることになる。とはいえこれは公式発表。労災隠しなんかも含めると、実際は倍ぐらい死んでおるぞ」
「やな話だなあ」
「お主はキチンと申請されてるから安心せえ。保険も降りとる。妹さんの暮らしはわらわが保証するぞ」
国と親じゃないの?
まあいい。とにかく特典を選ぼう。
第二の人生に欲しいもの……モテ期……は、転生したら勝手にモテそうな気がするしいいだろ。特典ハズレ系のギャグでも最終的にはハーレム主人公になったりするしな。後はステータスだが……これも案外なんとかなりそうだし。俺が駄目でも味方がなんとかしてくれるさ。
そう考えると難しい。なら、嫌なことを回避する方向で考えてみてはどうか。
それなら答えはひとつだ。俺はもう死にたくない。なぜならアレは本当に痛いからだ。ミンチになった俺の死因は頚椎粉砕やら心臓破裂だと思われるかもしれないが、実際のところショック死であるという説が濃厚だ。俺は五体がバラバラになる痛みに耐えられず死んだのだ。
「俺を死なないようにしてください」
「再生能力かの?」
「いや、そういうのじゃなくて……こう、死の運命を回避するタイプの」
「まどろっこしい要望じゃの……ちと待っておれ」
そう言うと、神様は老眼鏡を掛けてなにやら分厚い本を開いた。転生特典逆引き辞典――すげえな。もう完全にシステムじゃん。
「おー、あるにはあるぞ。その名もなんと『ギャグ補正』じゃ」
「あー……そういうことね」
なるほど。完全に理解した。
しかしギャグ補正ときたか。思っていたのと少し違うが、ギャグ世界なら本当にしんどい目には遭わないだろうし、いいのかもしれない。
「わかりました。じゃあ、特典はそれでお願いします」
「ガッテンじゃ。待っておれ。すぐに飛ばしてやるからの」
※
特段おしゃれな演出などはなく、本当に一瞬で転生した。
エフェクトも何もなく地面に投げ出された俺は、思ったよりも芝生が気持ちいいので少し昼寝することにした。思えばもうすぐ昼休みだ。俺を縛る就業規則もどこにもない。思う存分惰眠を貪るとしよう。ここはギャグ世界だから本当に酷いことにはならないだろうし。
「コロセ! コロセ! ニンゲンヲコロセ!!」
なぜだろう。遠くから怒声と足音が聞こえる。それも複数、いや、大群レベルで。
重たいまぶたを持ち上げてみれば、ドラゴンやらサイクロプスやらラスダン手前みたいな魔物の群れがこちらに迫っているではないか! 最初の町付近じゃなかったのか!? そんなの聞いてねえぞ!
「オ? ニンゲンガイル! コロス! コロス!」
先陣を切っていたバッファロー的な何かが俺を見つけたらしく、一目散に突っ込んできた。絶体絶命のピンチ! これ死ぬ! 死ぬぞ!!
「コロスウウウウウウウウウ!!」
バッファローのいやに長い角が俺の腹を貫こうとした、その瞬間――
「あああああああああああああクソがあああああああああああああああああ!!」
俺の体は三頭身になって空の彼方へ飛んでいった。
一話から出落ちなんてサイテー!!
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