ある雨の日、悍ましき話

文屋旅人

ある雨の日、悍ましき話

 雨が降る夜、女性が私の後をつけていた。

 なるほど、私にもついにモテ期が来たか、そう思った。

 ちらりとみると、黒い髪をして純白の服を着た、かわいらしい顔の別嬪さんである。

 うむ、あんな子にならストーカーされても満足だ。

 どうしようか、傘をさしてないから私が持っている予備の傘を上げようか。

 この間も職場の女の子に告白して断られたから、こうやって付きまとってくれる子ならラブホテルにも一発で誘えるだろう。

 そんなことをぼんやりと考えて、ふっと振り向いてみた。

「ひっ」

 思わず、声を上げてしまう。

 女性の手には、短刀。顔は般若の如く。歯をむき出しに、血走った眼でこっちを見ていた。

 背筋がぞっとし、私は走りだす。

「けええええええええええええええっ!」

 女は奇声を発しながら追ってくる。速い。

 あ、死んだ。

 そう思った。


 バン


 急に、女はスリップしたトラックにひき殺された。

 後で聞いた話だが、女は婚約していた男に全財産をだまし取られ逃げられていたらしい。しかも、胎の中にその男の子を宿した状態で、だ。

 私が何よりぞっとしたのはその男の写真を見た時。

 女である私に瓜二つだった。

 幽霊よりも何よりも、人間の悪意が怖い。

 そう思った雨の日である。



           了

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ある雨の日、悍ましき話 文屋旅人 @Tabito-Funnya

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