第6話「次期社長は投票で」

「幹部会で次期社長の就任については揉めているそうでな。そこで来週、藤堂とうどう君か久里浜くりはま君、投票によって選任することに決まったよ。そこで社員は全員、どちらかに一票を投じてもらうことになった」

 部長のデスクに私らは集められた。

 部長の話に、オフィス内はざわざわとざわめいた。

「こりゃあ、藤堂さん一択だろうな……」

 先輩がブツブツと呟いている。

 先輩は久里浜のことを目の敵にしているようだ。

 確かに、久里浜は社長の息子というだけで秀でた部分は他にない。農業学科なので畑違いも良いところだし、大学を卒業してから遊び歩いていて働いた経験すらない。

 会社を私利私欲の為に動かすことを公言しているような奴を、社長などに就任させるわけにはいかない。

──どうやら、先輩はそう思っていたようである。

 誰しもが、対抗馬の藤堂に票が集まるだろう──そう思っていた。


 ところが、投票日前の期日前投票──その日に参加することができない社員たちの投票結果が、社の掲示板に掲載された。

『藤堂二票、久里浜十一票』

「……はぁ?」

 先輩は、唖然としていた。

「久里浜に投票している奴は馬鹿かよ。会社を潰してぇのか……」

 肩を竦めながら、先輩は私に目配せをしてきた。

「久里浜が当選したら、この会社は終わりだ。俺らは、本当に解雇されて追い出されちまうかもしれな。いいか、今のままの暮らしを続けたければ、お前も藤堂に票を入れることだな」

 真顔で先輩が私に何やら言ってきた。

──藤堂に投票する!

 ただ、そんな先輩の熱い気持ちが、私にも伝わってきたような気がした。




「お父さん、お仕事どうなの? 大変そうね」

 夕御飯の席──。

 愛が何やら話し掛けて来た。

 私は味噌汁を舌で舐めながら、愛の顔を見上げたものだ。愛もこちらにじーっと視線を返してきている。

──何だろう?

 しばらく、私と愛の視線が交錯した。

 愛は手を差し出してきて、そっと私の前脚の上に重ねた。

「お父さん大丈夫だから。何があっても私たちがついているからね」

 愛の手は、とても温かった。


 何を言われているのかは分からなかったが、好意的な態度であることは感じ取れる。

 私もさらに、そんな愛の温かな手の甲に前脚を乗せ返した。

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