シゲルワン・ダンディ(犬)会社員

霜月ふたご

第1話「シゲルワン・ダンディの考え事」

 自分がただの『犬』でしかないことを、私自身が認識したのはよわいも三十を過ぎた頃のことであった。

 それまでは、他の人間たちと何ら変わらない日常生活をいとなんでいた。

 勿論もちろん、言葉が通じずコミュニケーションが取れないという弊害へいがいはあったし、彼らが扱う高度な機械や道具に馴染むこともできなかった。

 それでも、幼い頃からそのような環境の中で生まれ育ってきたので、そんなものなのだろうと勝手に自分自身で納得していたものだ。

 生き物にはそれぞれ得手不手がある。

 私にたまたまそれができなかったからといって他の人間たちと違いがあるなどとは、つゆにも思わなかったのである。


 だから、何ら疑問を抱くことなく、私は義務教育を終え、一企業に就職していた。会社の中でもある程度の地位を築き上げ、順風満帆の人生を送っていた。

 そんな折に、私は気が付いてしまったのだ。


 自分がただの『犬』であるということを──。

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