社内恋愛終了のお知らせ ⑭
瀧内くんがあまりにもさらっと言うので、思わず私もさらっと聞き流してしまいそうになったけど、今、間違いなく妻って言ったよね?!
みんなもあまりの衝撃に耳を疑い、言葉を失っている。
「えっ、ちょっと待って。妻って言った?」
「はい、妻がいます」
「えええ……いつの間に……?」
「昨日入籍しました」
「き、昨日?!」
驚いたことに、葉月との結婚準備を着々と進めている伊藤くんも、私との結婚が決まって急遽今日入籍した潤さんも、この中で一番歳下で浮いた話のなかった瀧内くんに先を越されていたらしい。
『浮いた話がなかった』と言うよりは、瀧内くんは私たちの知らないところで恋愛をしていたと言うことだ。
「おまえなぁ……そういうことはちゃんと言えよ!」
「今志織さんに聞かれるまで、誰にも聞かれなかったので」
「いやいやいや……普通聞かれなくても自分から言うだろ?」
「普通の定義がわかりません」
伊藤くんは瀧内くんから一言の相談もなく先を越されたことや、報告すらなかったことがよほど悔しいらしい。
潤さんも伊藤くんも、いとこと言っても兄弟同然の仲なのだから、一言くらいあったって……と思うのもわかる気がする。しかしこの瀧内くんが好きになって、結婚までした相手とはどんな人なのかがとても気になる。
「それじゃあ……奥さんはどんな人なのか聞いてもいい?」
この際だからとことん聞いてみようと思いきって尋ねると、瀧内くんはすんなりと口を割った。
「僕の初恋の人なんです。ちょっと歳上だけど、とても優しくてかわいい人ですよ」
「へぇ……奥さんは歳上なんだね」
瀧内くんは歳上の女性が好みだと言うことは知っていたから、それに関しては想定内だ。しかし瀧内くんの言う『ちょっと歳上』とは、どれくらい歳上のことを言うのか?
「歳上って、私と同じくらい?」
「いえ、もう少し上です」
私より『もう少し上』と言うことは、お相手はおそらく30代だ。
「玲司……いつの間にそんな相手見つけたんだ……?」
半分父親のような気持ちになっているのか、ずっと放心状態だった潤さんがやっと口を開いた。
「ちなみに瀧内くんの初恋っていくつのときだったの?」
「小学校4年のときだから、10歳くらいですね」
その歳で4つ以上歳上の女子に恋をするなんて、瀧内くんは意外とおませさんだったらしい。
「そうなんだ。もしかして、大人になって再会して付き合いだしたとか?」
「まぁ……そういうことになりますね。僕はずっと好きだったんですけど、当時はまだ子どもだったので、何度好きだと言っても相手にされませんでした」
なんと、告白までしていたのか!しかも何度も!
意外なことが多すぎてマヒしたのか、瀧内くんに関してはそれが当たり前のような気がしてきた。
「積極的なんだね。それでいつ再会したの?」
「社会人になってすぐだから、3年半くらい前です」
こちらが尋ねれば答えてくれることがわかってきたので、もう少し掘り下げて聞いてみようか。
「再会してすぐに、すんなりとお付き合いが始まったの?」
「いえ、付き合いだしたのは今年の春……営業部に異動になってすぐの頃だから、半年ちょっと前です」
私が言うのもなんだけど、付き合って半年ちょっとで結婚したのなら、世間的にはかなりのスピード婚だと思う。
「どんなきっかけで付き合いだしたの?」
「潤さんと同じですよ」
「……と言うと?」
「僕はずっと好きだったから、再会してからはときどき僕から誘って、一緒に食事したり出掛けたりはしてたんです。彼女はずっと親から結婚を急かされていて、頻繁に見合い話を持ち掛けられるようになって困ってたので、だったら僕が婚約者になるから、親にそう言って見合いを断ればいいって言ったんです」
「それでそのまま射止めちゃったわけね……」
潤さんに婚約者作戦を勧めたのは、瀧内くん自身が実践してうまく行ったからなのだと納得した。
この瀧内くんをそうまでさせた彼女を見てみたい。
「瀧内くんがそこまで好きになったんだから、さぞかし素敵な人なんでしょうね。ぜひ会ってみたいなぁ。写真とかあったら見せて」
ダメ元でお願いしてみると、瀧内くんはポケットからスマホを取り出して操作し始めた。
なんと、こんなにすんなり見せてくれるとは!
「会ってみたいって……もうみんな何度も会ってますよ」
「……え?何度も会ってる?」
「はい、昨日入籍したあとに写真館で撮った写真のデータを送ってもらったのがありますけど……見ますか?」
瀧内くんはその画像を画面に映し出してテーブルの上に置いた。一体誰なのかと、みんなでスマホの画面を覗き込み二度見する。
「えっ、ホントに?!」
「マジか……!!」
「嘘やん……!」
「玲司の初恋の人って……小野だったのか!」
私と伊藤くんと葉月より、ひときわ驚いた潤さんが思わず大きな声をあげると、瀧内くんはうなずいてスマホをポケットにしまう。
「そうですよ。里美さんが僕の初恋の人で、僕が唯一好きになった女性で、今は僕の妻です」
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