愛とロマンの日曜日 ①

 寝室のベッドで寄り添ってぐっすり眠り、潤さんに腕枕されて目覚めた日曜日の朝。

 私たちはあたたかい布団の中で抱きしめ合って、何度もキスをした。


「こういうのを至福のときって言うんだな」


 潤さんが私の頬を撫でながら呟く。私はその手を握って頬ずりをした。


「うん、潤さんといるとすごく幸せ。こんなに幸せって思うの初めて」


 私がそう言って笑うと、潤さんは私の額に額をくっ付けてため息をついた。


「はぁ……やっぱかわいい……。あんまりかわいいと残さず食っちゃうよ?」

「潤さん、狼みたい」

「狼だからな。大好物はもちろん志織」


 潤さんは私の腰に手を回し、喉元に噛みつく真似をして、首や耳たぶを優しく甘咬みしたり、唇にキスをして軽く吸ったり、鎖骨の辺りに舌を這わせたりする。


「んっ……くすぐったい……」

「くすぐったい?じゃあ……気持ちよくしてあげようか?」


 潤さんが腰に回していた手をパジャマの裾からジリジリと忍び込ませると、私はその手をガッシリとつかんで抑止する。


「それはダメ」

「……やっぱダメか」


 こんな風にくっついていると、どうしてもムラッときてしまうらしい。それは無理もないのだけど、やはりここは我慢してもらわないといけないので、そろそろ起きることにした方が良さそうだ。


「お腹空いた。ねぇ潤さん、どうせ食べるなら朝ごはんにしよう」

「そうだなぁ……。もう少し布団の中で一緒にゴロゴロしてたかったんだけど、このままこうしてると志織を食っちゃいそうだから、そうしようか」


 潤さんはしぶしぶといった感じで起き上がり、私を抱き起こして唇に軽く口付ける。


「あー……怪我さえしてなければなぁ……」

「うん、だから二人とも早く治そうね」


 心底残念そうに呟く潤さんを軽くいなして、一緒に1階に下りた。

 ハムエッグを乗せたトーストとコーヒーを二人で用意してゆっくりと朝食を済ませ、食べ終わったあとは私が食器を運び、潤さんが洗う。

 片付けが済んだ頃には、リビングの壁掛け時計の針は10時半を少し過ぎたところを指していた。

 二人でソファーに座って2杯目のコーヒーを飲んでいると、潤さんが部屋の隅に起きっぱなしになっていた荷物を指さしながら尋ねる。


「そう言えば……昨日は急に親父が来てバタバタしてたからろくに話も聞けなかったけど、木村たちと買い物行ったんだろ?何買ったの?」

「普段着とか通勤用のスーツとかコートとか、いろいろ買ったよ。そうそう、引っ越し祝いにみんながプレゼントしてくれたんだった」


 コーヒーをテーブルに置いてソファーのそばに荷物を運び、袋の中から葉月が選んでくれた部屋着を取り出した。

 淡いピンクに黄色のぶち模様が入った部屋着は、ふわふわモコモコした手触りが気持ちいい。


「葉月からはこれ。この部屋着、すごく手触りがいいの」


 部屋着を差し出すと、潤さんは手を伸ばしてその手触りを確かめる。


「おお……たしかにこれは……めちゃめちゃ抱き心地が良さそう」

「抱き心地って……」


 そんな風に改めて言われると、なんとなく照れくさい。潤さんはこの部屋着を着た私を抱き枕にでもするつもりなのか。


「ピンクとか黄色の服って、志織が着てるのあんまり見たことない」

「こういうの私にはかわいすぎる気がして、照れくさいから自分ではなかなか選ばないけど、絶対に私に似合うからって葉月が選んでくれたの」

「うん、かわいいから絶対に似合うと俺も思うよ」


 本当に似合うんだろうか。たとえ似合わなくても、潤さんなら喜んでくれそうな気がしなくもない。


「それからこれは伊藤くんから。私と潤さん、おそろいのマフラー」


 色違いのチェック柄のマフラーをふたつ手に取って見せると、潤さんは赤いマフラーを私の首に巻き、紺色のマフラーを自分の首に巻き付けて、私の手を握る。


「マフラーしてる志織もかわいいな。寒くなったら、こうして一緒に通勤しよ」

「おそろいのマフラーはともかく……手を繋いで会社に行くの……?」


 私がおそるおそる尋ねると、潤さんは少し首をかしげて考えるそぶりを見せた。


「そっか……。そうしたいのはやまやまだけど、会社の人間に見られると恥ずかしいか……。じゃあ、手を繋ぐのは家を出るまでにしておこう」


 家を出るまでって……潤さんはどんだけ私と手を繋ぎたいんだ。


「さすがに会社に行くときには無理だけど、それ以外のときはこうして歩こうな」


 そう言って潤さんはまた私の手を握る。

 どうやら潤さんは、どうしても私と手を繋いで歩きたいらしい。そんな甘えたなところもかわいい。


「それならいいかな。潤さんの手あったかいし」

「あったかいだけ?」

「ううん、大きくてあったかくて、優しいから好き」

「俺も志織の手、柔らかくてかわいいから好き。まぁ、俺は志織の全部が好きなんだけどな」


 恥ずかしげもなく『好き』だとか『かわいい』と言う言葉を連発されると、こちらの方が恥ずかしくなる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る