そうと決まれば話は早い④

 そう思って断ろうとしたけれど、奥田さんはキラキラ目を輝かせて、足はすでに半分フルーツパーラーの方へ向いている。よほどそのフルーツタルトが食べたいらしい。

 おそらく彼女は護の付き合っている相手が私だと知らないから、悪びれる様子もなく休日に偶然会った私に声を掛けてお茶に誘ったりするのだろう。

 つい数日前は憎らしくて許せない相手だったはずなのに、護と別れると決めたらなんだか少し気が抜けて、だんだんどうでも良くなってきた。


「……そうね、行きましょうか。ちょうど甘いものが食べたいと思ってたの」

「ハイ、行きましょう!」


 嬉々としてフルーツパーラーに向かう奥田さんは、いつもに増して男受けしそうな可愛らしい格好をしている。これが計算ずくでそうしているのか、逆に狙わずともそうなる天然の才能なのかはわからないけど、通りすがりの男性がチラチラと奥田さんの方を気にしているところを見ると、やはり彼女は異性にモテるという結論で間違いないのだろう。


 フルーツパーラーに入ると、オープンテラスと店内の席のどちらがいいかと店員に尋ねられた。

 若い奥田さんはきっとおしゃれで明るいオープンテラスが良かったのだろうけど、彼女ほど若くはない私は人目や紫外線が気になるので、店内の奥の方の席を希望した。案の定、奥田さんはオープンテラスの方を気にするそぶりを見せた。


「勝手に店内の席に決めてごめんね。やっぱりオープンテラスの方が良かった?」

「いえ、フルーツタルトが食べられたら席はどこでもいいんです!ただ窓際の席に知り合いに似た人がいて」

「そうなの?声掛けなくていいの?」

「大丈夫です、誰かと一緒だったみたいですし。それにもしかしたら人違いかも知れないので」


 席についてメニューを開くと、一番最初のページの目立つところにフルーツタルトの写真が載っていた。奥田さんの言うように、この店の看板商品らしい。

 だけどやっぱり私はフルーツタルトにはあまり魅力を感じないし、どちらかというとフルーツより生クリームをたくさん食べたい。

 ページをめくると、フルーツだけでなくプリンや生クリームの乗ったパフェの写真が並んでいて、俄然食欲が湧いた。中でもイチゴ、生クリーム、プリンの三つ巴の夢のようなコラボレーションのパフェに目が釘付けになる。


「イチゴとプリンのパフェにしようかな」

「あれ?フルーツタルトにしないんですか?」


 フルーツタルトが最高に美味しいと教えてくれたのに別のものを頼むなんて、嫌味に感じただろうか。少々面倒ではあるけれど、気兼ねなく好きなものを食べたいので、フルーツタルトを注文しない理由を正直に話すことにする。


「いろんな種類の果物がいっぺんに乗ってるのは好きじゃないの。組み合わせが苦手なのかな。ひとつひとつは好きなんだけどね」

「へぇ……珍しいですねぇ。私はいつもこの店ではフルーツタルト頼むんですよ」


 ずいぶん一途だこと、と思わず皮肉を言いそうになったけれど、これこそ本当の嫌味になってしまうと思い慌てて口をつぐむ。


「こんなにたくさんメニューがあるのに、いつも同じものなの?」

「大好きなんです!私、なんでも好きになるとそればっかりになるくせがあって」

「ずいぶん一途だこと……」


 言うつもりはなかったのに、無意識のうちに口が動いてしまった。深い意味はないと見せかけるため、できるだけ自然な流れで店員を呼ぶ。

 奥田さんはフルーツタルトとダージリンティーのセット、私はイチゴとプリンのパフェとホットコーヒーを注文した。

 それでさっきの一言は忘れてくれたかと思ったのに、奥田さんは神妙な面持ちで大きなため息をついた。


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