聞き込み調査⑤

「えーっと……それはどういうことかな……?」

「お察しの通りです」


 いやいや、それじゃ全然わからないよ!


「別れたくないならですけどね。遊びで済むうちにやめさせた方がいいと思います。やめられないならキッパリ別れた方がお互いのためだと思いますよ」


 何それ?!瀧内くん、もしかして護と奥田さんのことを何か知ってる?!

 動揺しているのは私だけではないらしい。葉月も少し慌てた様子で、何か言いたげに瀧内くんと私を交互に見ている。


「ちょい待て瀧内!アンタは何を知ってそんなこと言うんか、ちゃんと説明せぇ!」


 葉月が興奮気味にまくしたてると、瀧内くんはめんどくさそうにため息をついた。


「本人のいないところでプライベートなことを勝手に話すのはどうかと思いますが」

「どの口が言うてんねん!ここまで言うたんやったら全部話さんかいな!モヤモヤして気持ち悪いっちゅうねん!!」


 瀧内くんは葉月の激しい関西弁にも動じることなく、右手をあげて店員を呼び止め生ビールのおかわりをオーダーする。

 店員が席を離れるのと入れ替わりで三島課長が慌てた様子で戻ってきて、スーツのズボンのポケットから財布を取り出した。


「ちょっとトラブルがあったみたいだから会社に戻る。話の途中なのに悪いな」


 三島課長はそう言いながら一万円札を私の手に握らせた。


「これで会計よろしく。足りない分はみんなで折半な」

「でもこんなに……」


 ほとんど私たちの飲食代なのに、途中で抜ける三島課長にこんなに出してもらうのは気が引ける。お金を返そうとすると三島課長は私の頭をポンポンと軽く叩いて笑った。


「遠慮すんな。たまにはいいとこ見せとかないとな」

「すみません、ありがとうございます。それじゃあ遠慮なくごちそうになります」


 私がお礼を言うと、葉月と瀧内くんも「ありがとうございます」とお礼を言って頭を下げる。

 三島課長は鞄を手に店を出ようとしたけれど、すぐに立ち止まって振り返り私たちのいる客席へ戻ってきた。

 何か忘れ物でもしたのかと思い三島課長が座っていた辺りを急いで確認してみたけれど、何も忘れてはいなさそうだ。


「さっきの話だけどな、付き合ってる期間の長さとか、婚約しているかどうかとか、ついでに言うと男も女もあまり関係ないんじゃないかと思うんだ。浮気するやつは欲望の赴くままに浮気するんだろう。そんな相手と結婚するのはやめた方がいいと俺は思う。じゃあ俺急ぐから、またな」


 少し早口でそう言うと、三島課長は今度こそ慌てて店を出た。

 急いでいるのにわざわざ戻ってきて自分自身の意見を言ってくれるなんて、三島課長は本当にいい人だ。こういう人柄だから後輩に慕われるんだろう。

 三島課長が急いで店を出た後、私はとりあえずビールのおかわりを注文して、おそるおそる瀧内くんの顔を見た。


「あのね、瀧内くん。さっきの話だけど……ここだけの話ってことで、知ってること教えてくれないかな?」

「……でしたら佐野主任が先に本当のことを話すべきだと思います」

「……だよね」


 確かにこちらは何も話さず瀧内くんにだけ話せと言うのも身勝手な話だと思う。ここは覚悟を決めて腹を割って話すしかなさそうだ。


「わかった。ちゃんと話すから、瀧内くんも話してくれる?」

「わかりました」




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