聞き込み調査④

「はぁっ?!なんだそれ?!」

「私にはわからないから聞いてるんです」

「まさか橋口がそう言ったのか?それとも彼氏が?」


 実は同一人物なんですけどね、と心の中で呟いて首を横に振る。


「いや……直接そう言われたり聞いたりしたわけではないですよ。よく雑誌なんかで載ってるじゃないですか。男の人は本当にそんなこと考えたりするのかなって思っただけです」


 ……今の不自然だったかな?

 だけどやっぱり、護の直属の上司の三島課長に本当のことは言いづらいし……。


「好きだから付き合って結婚するんだろ?切り離して考える必要あるのか?」

「さぁ……あるんですかね?」

「俺は男だけど、その考えは理解できない」


 三島課長は心と体を切り離して考えるタイプではないらしい。


「瀧内くんはどう思う?」


 ずっと黙ってビールを飲んでいた瀧内くんが、めんどくさそうに顔を上げた。


「人それぞれじゃないですか?」

「まぁ、そうなんだけどね……」

「三島課長がおっしゃる通り、僕の意見なんか聞いても参考にはならないと思いますよ。僕は佐野主任の友達の彼氏じゃないので。彼氏に直接聞いてみたらって言えばいいんじゃないですか?」


 それができれば上司や元部下にこんなこと聞かないよ!

 だけど瀧内くんの言うことは正論過ぎて何も言い返せない。


「それを言ったら元も子もないな、瀧内。参考にはならなくても質問に答えるくらいはしてやれよ」


 相変わらず三島課長は優しい。

 瀧内くんも決して悪い子ではないんだけど、他人に必要以上に興味を持たないというか、感情をハッキリと顔に出すこともないし、干渉されるのが嫌いなのか、いつも人との間に高い壁を作っているような気がする。


「男女問わずそんな風に考える人もいるでしょうけど、僕個人としては共感できません」


 上司の三島課長に促されて仕方なく答えたのだろう。瀧内くんはそれだけ言うと、また無表情でビールを飲んでいる。


「うん……そっか。ありがとう」


 今日のところはこれ以上のことは何も聞き出せそうもない。

 瀧内くんの言う通り、三島課長や瀧内くんの意見をいくら聞き出したところで、私と護の関係がどうにかなるとも思えない。

 このまま何も知らないふりをしていればいいのか、ハッキリと本人に浮気はしないでと言うべきか。

 それとも別れるしかないのか。

 結局どうすればいいんだろうと思いながら、ジョッキに残っていたビールを飲んでいると、誰かの電話の着信音が鳴った。

 三島課長はジャケットのポケットからスマホを取り出して画面に映し出された名前を確認すると、慌てて席を立った。


「部長からだ。悪い、ちょっと席外す」

「はい、行ってらっしゃい」


 瀧内くんは三島課長が店の外に出るのを見届けると、チラリと私を見た。


「うじうじ悩むくらいなら橋口先輩にちゃんと言った方がいいですよ、浮気はしないでって」

「えっ?!」


 瀧内くんの口から突然護の名前が出てきたことに驚き、我が耳を疑った。

 私は護が浮気してることなんて一言も言ってないし、それ以前に護と付き合っていることさえ話していないのに、なんでその言葉が瀧内くんの口から出てくるわけ?!


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