浮気現場目撃⑤
搾られてグチャグチャになったレモンを皿の上に放り投げて、レモン汁のついた親指をペロリと舐める。 まるで護のはらわたを素手で握りつぶして、滴る血を舐めている気分だ。
「だからさ……奪い返して絶対に浮気できないようにするか、もしくはこれでもかってくらい屈辱を味わわせて捨ててやるか。何かしら痛い目見せないと気が済まない。もちろんあの女もね」
「こわっ……。愛と憎しみは表裏一体やな……」
葉月は顔をひきつらせながらチューハイのジョッキを傾けた。
それくらいのことをしてやらないと……少なくとも私と同じくらい傷つけてやらないと、気が済まないに決まってる。
あんなに私を好きだって言ってたくせに。
私だって護のことが好きだったのに。
あんな風に言われて浮気されていると知った今だって、護が好きだからこそ悔しいし悲しいし、何も知らずに信じていた自分が惨めで情けない。
「それで志織はどないしたいん?奪い返したいんか、別れたいんか」
「……別れたくない」
「そんなに好きなん?」
「……うん」
好きだから別れたくない。それがいたって単純な私の本音。自分でもバカだとは思うけれど。
「橋口なぁ……みんなには志織のこと、ええ彼女やって言うてる。そろそろ結婚のことも真剣に考えなアカンなとか」
「ホント?」
「うん。志織のことはベタ褒めやし、好きなんやとは思う。けどな……いくら遊びでも浮気はアカンやろう。いっぺん味しめたら、またなんぼでも繰り返すで。大事なことやし、よう考えや」
葉月の言うことはもっともだ。
私は護が好きだから他の人に抱かれたいと思ったことなんてないけれど、護は私を好きだと言いながら奥田さんと体の関係を持っている。
付き合ってきた3年の間に二人で積み上げてきた物を、一瞬にして失う可能性だってあると言うのに。
それでも浮気したということは、もしかしてその原因は私にもあるんだろうか?
「護が浮気したのって……私とのセックスでは満足できないからなのかな?満足できたら浮気やめると思う?」
「さぁ、どうやろなぁ……。言うても全然してなかったわけちゃうやろ?」
「まぁ、普通に…………ん?あれ?」
普通に、と思っていたけれど……最後にしたのはいつだっけ?
私が首をかしげて考えていると、葉月もつられて首をかしげた。
「どないした?」
「全然普通にしてないよ……。最後がいつだったか思い出せない……」
一体いつから奥田さんとそんな関係だったのかは知らないけれど、そういえば私は最近護とセックスどころかキスすらしていない。
躾の厳しい親のもとで育ったこともあってあまり恋愛経験の多くない私は、長く付き合っているとこんなものなのかなと、あまり深刻に受け止めてはいなかったのだけれど、おそらく奥田さんとしているから私とする必要はなかったのだろう。
「性の不一致とか……そういうのも離婚の原因になるとか言うし、いくら志織が頑張っても橋口が満足できるかはわからんよ?そもそも好きでもない相手とした方が気持ちええとか、おかしいやろ?」
「そうだよね……」
護が本当に私のことが好きなら、そんなことは考えないと思う。愛する人と触れ合うことで、身体だけでなく心も満たされるのだと私は思っているから。
だったらやっぱり護は私のことがそんなに好きじゃないから浮気ができるのかな?
「この際やから、志織も浮気してみたら?」
「えっ?!」
私が浮気?護以外の人と体だけの関係を持つって?
どんなに想像しようと試みても、私の脳がそれを拒否している。
「……いや、それはないよ。私は好きでもない人とはできないから」
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