5
それから、もう一度、小さく笑ってから、ふー、と息をはいて、身体中の緊張を解いてから、初花はじっと鉢のことを見つめた。
それから真面目な顔をした(まだ顔を赤く染めている)初花が、「あの、先輩。実は、話っていうのは……」と、その小さな口を開いて、鉢になにかを言おうとしたときに、がらっという音がして、園芸部の部室のドアが開いた。
「あ、二人とも。今日、部活きてたんだ。偉いね」
部室の中で向かい合って座っている鉢と初花のことを見て、園芸部の顧問。大谷涼子先生はにっこりと笑ってそう言った。
大谷先生はいつものように長い髪をポニーテールにして、その格好は白衣姿だった。(大谷先生は生物の先生だった)
みーん、みーんという蝉の鳴き声が聞こえる。
それから少しして、お互いに黙ったままで、じっとドアのところにいる自分を見ている鉢と初花のことを観察して、「……あれ? もしかして、私お邪魔だったかな?」と大谷先生は言った。
「いえ、そんなことありませんよ」
大谷先生を見て、初花は言う。
「ね、先輩!」
それから、鉢を見て、にっこりと笑って初花は言った。
(初花は、いつもの初花に戻っていた)
それから大谷先生は二人のいるスチールのテーブルのところまでやってくると、そのテーブルの上に置いてあるチョコレートの入った箱を見つけて、「あ、チョコレート。これ、差し入れ? 私も食べていいの?」と満面の笑みを浮かべて、二人を交互に見ながらそう言った。
「はい。どうぞ。どれでも好きなやつ、食べちゃってください」元気な声で初花は言う。
「どうもありがとう。これ、高野さんの差し入れだよね。椎名くんは差し入れとか、そういうこと全然しないもんね」鉢を見て、楽しそうな顔で大谷先生は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます