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「これ、高野さんの差し入れ?」鉢は言う。
「そうですよ。えらいでしょ?」
にっこりと笑って初花は言う。
園芸部の部室の中には二人のほかに誰も人がいない。園芸部にはあと三人の部員が所属しているのだけど、部長も、副部長も、あと残り一人の部員も、今のところ、園芸部の部室の中にやってくる気配はほとんどなかった。(そういうことがこの七草高校園芸部ではよくあった。年にいくつかある文化祭などのイベントの日や、月の決まった古い種の観測日以外は基本自由な部活動なのだ。古い種を発芽させる、とても手間暇のかかる作業は、顧問の大谷涼子先生が一人でやっていた。そもそもこの古い種を園芸部に持ち込んだのも、大谷先生だった。そこが面倒くさがり屋の鉢が、この七草高校園芸部の部活動の中で一番気に入っていることだった)
「? どうかしたの?」
鉢は言う。
見ると、目の前にいる初花は、なんだか落ち着かない様子で、鉢を見たり、部室の中のいろんなところに目をやりながら、なんだかとても、『そわそわ』していた。
園芸部の部室の中はしんと静まり返っている。
いつもなら、ずっと話をしている初花が、今日はあまり話をしないせいだった。
部長も、副部長も、森部くん(もう一人の部員の名前だ)も、部室の中にやってこない。
鉢はもう一つ、木の実のようなチョコレートを食べながら、自分の目の前にいる高野初花のことを見ている。
今日の初花はいつもの初花とはどこか少し違って見える。
「先輩。あの、実は先輩に話があるんです」
久しぶりに口を開いて初花は言った。
「話ってなに?」鉢は言う。
「はい。あの実は……」そう言ってから初花は、(いつもの元気でおしゃべりな初花らしくなく)顔を赤く染めて、もごもごと口ごもった。
(鉢はもぐもぐとチョコレートを食べながら、そんな初花のことを変だな? と思いながら、じっと見ていた)
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