2人暮らし

mico

第1話 未知との遭遇

「つくづく思っていることだが、俺なんかに構ってて良いのか?他の奴の方がいいんじゃないか。」

「再三言っている事だが、君で問題ない。いや、君がいい。」

「………なんか、その言い方は嫌だな。」

日曜日の午後1時。2人の人間が存在するにはやや狭小なワンルームのアパート。眼鏡の若い男と黒髪の若い女が向き合って昼食を取っていた。いや、厳密には昼食を取っているのは男の方だけなのだが。

「ふむ。しかし君だけが食事を取るとはなんともおかしい光景だな。失礼に当たるとは思わないのかな。」

「じゃあお前も飯を食うか?炊飯器にまだ米なら入っているぜ。冷蔵庫から納豆も取っていい。」

「何を冗談を真に受けているんだ君は。私に食事など必要ないと言っただろう?」

「へぇ、お前でも冗談言うのか。それともアレか?フィードバックの観測ってやつか?」

「いや、失礼。単に私が言いたくなっただけだよ。」


この2人の出会いは1ヶ月程前に遡る。


「やぁ、こんばんは。福住葵ふくずみ あおいくん。私は端的に言えば、神のようなものだ。なにか叶えて欲しい願いはあるかい?」


仕事から帰ってきて家に入った瞬間、視界に飛び込んできた謎の女。しかも自らを神と宣うではないか。男がうろたえるのも無理からぬ事であった。

「………その前に質問、いいですか?どうやって部屋に入ったんですか?」

「神様にできないことなんてないさ。さぁ、願いはないのかい?だいたいのことなら叶えてあげよう。回数制限はないからまずはお試し程度に手ごろなところからどうかな?」

逡巡の後、男は答えた。

「…………えっと。じゃあ通勤が面倒なので勤務先まで一瞬で行けるようにしてください。」

「了解した。それじゃあ明日の朝、送って欲しいときに言ってくれ。会社の場所もその時に教えてくれたらいい。なんなら起こしてやってもいいぞ?」

「……それじゃあ6時半に起こしてください。朝の。」

そうして男は着替えもせず布団に潜った。


(何なんだアレ!誰なんだよ!家の様子見たけど何も盗まれてないよな?!殺人犯とかじゃないよな!?怖すぎるだろ!オシッコちびるわ!えっ、何ほんとアイツ!願い叶えるとか何なんだよ!……………ってまだ家いるのかよこーわ!えっ寝てる間に殺す気とかじゃないよね?!えっ、寝られないんですけどやめてくれよ本当!頼むよ!通報する?!通報した方がいいよね??!)

絶えず頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ福住。そんな彼が眠れるはずもなく、翌朝。

「おい、起きろ。6時半だぞ。眠れたか?」

「……………いや、全然。」

こんな会話を交わした。


男は布団をたたみ、朝食の準備をした。

「見たところ睡眠不足みたいだな。不眠症か?」

「いえ、違います……………」

トーストにサラダ、ベーコンエッグ。作った朝食を男は貪る。

「朝飯、いらないんですか?」

「いや結構。私は食事を必要としないのでね。」

「…………そうですか。」

もしゃもしゃと朝食を取った後、男はシャワーを浴び、着替えた。

「それじゃあそろそろお願いしますね。会社はここです。」

スマホの地図アプリで会社の位置を教えた。内心本当だとは思っていないので、もし嘘だったとしてもギリギリ遅れない程度の時間である。

「了解した。それじゃあ行くぞ。」

と、聞き終えないうちに。男の体はすでに会社の前にあった。

「…………うわ、マジじゃん。」

思わず一人呟いた。


「お帰り。夕食なら作っておいたぞ。」

何やら昨夜より手厚くなっている歓迎に驚くこともなく男は帰ってきた。そして、聞くべきことを聞いた。

「あの、あなたは何者なんですか?」

「私か?私は……端的に言えば、宇宙人だ。」

宇宙人。昨日とは話が違うぞ。

「昨日は神と言ったな。アレは嘘だ。私の文明は君たち地球の文明から遥かに進んでいるからね。君たちからしたら神まがいのこともお茶の子さいさいなのさ。」

「じゃあ、何で僕の願いを叶えてくれたんですか?」

「私はいわゆる科学者という奴さ。君たちの文明に神とでもいうべき存在がもしいたら何を願うか。それによって何が起こるか。神の実在によるフィードバックの調査、とでもいうべきかな。」

なるほど、要するに俺はこいつの掌の上で踊らされてるだけだ。

「そういうことになるな。で、願いはないのかい?」

「あの、心を読まないでください。それととりあえず願いはいいです。」


そして男は夕食を取り始めた。焼き魚を主菜とした模範的な和食。

「ところで、名前とかないんですか?」

ふと箸を止めて男は尋ねた。

「名前……ね、確かにないと君が呼ぶのに困るね。栄町藤さかえまち ふじ。そう名乗ることにしよう。栄町が苗字で、藤が下の名前。それで良いかい?」

「栄町さん……。で、いつまでいるんですか?」

「気の赴くまで。」

こうして男女2人、うち1名宇宙人の2人暮らしが幕を開けたのである。


「君が敬語を使っていた頃が懐かしいな。栄町さん、だったか?」

「うるさい。ご馳走様。皿は俺が洗うから。」

「了解した。」

なんだかんだ、2人暮らしは1ヶ月続いている。

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