第6話 明治転生録 -料理とアルバイト-

 近ノ衛家の使用人として手伝うことになった美知留。といっても、実家ということもあり、どこに何かがあるのは、手に取るようにわかる。

 そのため、たかやからは物覚えがいいと、ほめられた美知留はちょっとうれしくなっていたのだった……

 近ノ衛家には長廊下もあり、掃除するのに苦労するほどの長さがある。そのため、子供の頃は、良く駆け回って遊ぶこともあった。


「ここを雑巾がけかな。」

「はい。よいしょっと。たかやさん。こんな感じ?」

「うん。そうだ……なっ!?」


 たかやはお約束的な光景に、美知留の姿にくぎ付けになっていた。

 雑巾がけは、濡らした雑巾を硬く絞り、廊下に置き両手で床を磨くことになる。その際に駆け足で走っていくことになる。

 ただ、美知留のこの時の恰好。海外向けのメイド姿でこれをすると、お尻を後ろに突き出す形になる。そして、ミニスカートではなかったものの、お尻の形状がくっきりと浮き出てしまっていた……

 向こう側に着くと、今度はこっちに折り返してくる。

 当然、前傾姿勢になることで、美知留の胸の谷間が丸見えになってしまっていた。雑巾がけに夢中な美知留は、そんなことをまったく気にしていないようで、たかやの元へと戻ってくる。


「ふい~~」


 前回の鼻血の一件以来、たかやは鼻血が出にくくなったのか、鼻血を出すことが少なくなっていた。ただ、鼻をいじるクセが付きかけていたのだった……

 何回か往復すると、廊下も綺麗になり、雑巾がけが終了した。そのほかにも、窓を拭いたりなど、いろいろな仕事をこなした美知留。


『こうしてみると、うちの母さん。大変だったんだなぁ~~』


 ひとしきり掃除を終えると、普段の運動不足からか、うっすらと汗をかくほどだった。厨房に移動し、こあがりに腰を下ろした美知留は、思わず普段通りのしぐさをしてしまった……


「ふぃ~~あつい~~」

「みち……る?!」

「へっ?」


 たかやに呼ばれた美知留は、胸元をガホガホしたまま振り返る。

 見ようとしてみたわけではなかったが、自然と胸元に向いていたたかやからは、美知留の下着が見えてしまっていた……

 そして、たかやにとっては、不幸が重なった。それは、たかやのうしろに美緒がいたことだった……


「もう、たかや。いきなり止まって、なにを……!!!!」

「み、美知留!!!!」

「あっ。美緒ちゃ~ん~」

「美緒ちゃんじゃないわよ! あんた! 見えてるから!!」

「あっ……」


 美知留は慌てて隠すも時すでに遅かった。


「たかやさん……」

「な、なんだ?」

「見た?」

「み、見てない……よ?」


 たかやはこの場を繕うつもりで言ったのだったが、体は正直だった……


「見たんですね……たかやさん」

「い、いや。見てない……」

「じゃぁ、その鼻血は?」

「あっ! たかや、あんた!」

「い、今のは、じ、事故で……」

「いいから、わすれろぉ~~!!」


ずぼっ!


「ぬおぉぉぉぉ!!」

「あははは。」


 二人のやり取りに、思わず笑ってしまう美知留だったが、さすがの美緒も怒っていた。


「『あははは』じゃないわよ! もう! ほんと、美知留って、たまにがさつよね。女の子なのに、胸元ガホガホしたりとかさぁ……」

「そうかな?」


 そう言いつつ、美知留は胸元をガホガホさせる。そして、その手をパチンとたたく美緒という構図が出来上がっていた。


「だから、ガホガホしないの。もう……。はしたない……」

「えぇっ……」

『わからなくもないけどさぁ……』


 美知留の様子を見つつ、美緒も自室なら、やってしまいそうなことを美知留もやっていたのだった。ただ、唯一違ったのは、他の人の目に着くところでもやってしまう美知留だった……

 一方。そのころ……

 近ノ衛家の玄関先では、咲夜が電話口で何かを話し込んでいた。


「えっ?! そんなに忙しいの?」

『はい。もう、てんてこまいですよ。猫の手も借りたいほどで……』

「こちらから、ひとり。行かせる?」

『いいんですか? そうしてもらえると嬉しいのですが……』

「いいわよ。」


 美知留が行ったこの前の料理店が、どうやら大賑わい状態らしく、人手がちっとも足らないとのことで、咲夜のもとに電話をかけてよこしたのだった。そして、咲夜の頭の中にあったのは、美知留なら……。との思いだった……


「美知留……行ける?」

「いいんですか? あたしで……」

「いいも何も、あなた、この前行ったとき、興味津々だったじゃない。」

「確かにそうだけど……」

「だから、行っていいのよ。手伝ってあげて。」

「どうも、提供する人がひとり来れなくなったらしくて……」

「なるほど……」


 美知留とて、アルバイトをしたことがないわけではなかった。それこそ、料理店でも同じようなバイトもしたことがあった……


『レジ打ちもしたことがあるし……できるかも?』


 そんなことを思いつつ、美知留は数日前に食べに行った料理店へと向かった。そこには、行列ができるほどのお客が山ほど並んでいた……


『うわぁ~かなり混雑してる……』


 そんな行列を見て驚いている美知留を見かけた店員は、美知留のもとに駆け寄ってきた。


「あなたが、美知留さんね。」

「は、はい。」

「ほんと……日本人離れしてるね……」


 その店員は、主に美知留の胸を見ながら日本人離れしてる印象を持ったようだった……


『あたし……そんなに大きい?』


 そんなことを思いつつ、美知留は店員に連れていかれるがまま、店の手伝いを始める。厨房の様子を眺めると、さながら戦場の様相を呈していて、挨拶どころではなかった。


「じゃぁ、会計できる?」

「はい。レジ打ちですよね?」

「レジ? まぁ、いいわ。とりあえずこれ……」


 そこには、美知留の知っているレジとは比べ物にならないほどデカいレジがった。多くのキーが並び、どれをどうしたらいいのかがさっぱりわからなかった……


『えっ?! なにこの、レジ……』

「やっぱりわからない?」

「は、はい。すみません……」

「いいのよ。じゃぁ、提供やってくれる?」

「は、はい。」


 それからは、まさに戦場だった。

 ひとの間を縫って提供し、空いた皿は回収。その合間に注文を取るという、まさに荒業だった。

 長い手足を器用に使いこなす美知留の姿は、店員も目を見張るものがあった。そして何より……


『きれい……』


 美知留は現代でこそ、普通の女子で、容姿端麗とは言われたことすらなかったが、明治時代の人からすれば、端正な顔立ちと長い手足。日本人離れした容姿なこともあり、店員からすれば、キレイに見えていた……


「ありがとうございました~~」


 それに何より、普通なら忙しさにてんてこ舞いになりかねないこの状況でも、笑顔を振りまいていた美知留は、客の心すら射止めていたのだった……


「なぁ、あの子。新人か?」

「か、かわいい……」

「それに、あの格好……」


『イイ!!』


 店に来ていた男性客の期待と欲が、美知留の姿にくぎ付けになっていた。

 そして、いっときのラッシュが終わった後。ようやく戦場のような一日が終わりを告げた。


「お疲れ様。助かったよ~」

「いえ。これくらい、平気ですよ……」

「ふぃ~~でも疲れました~~」


 店を準備中にし、店内の椅子に座ると、またしてもクセの胸元をガホガホさせてしまう美知留。しかもそのタイミングで、厨房の男性陣がひょっこりと顔を出したものだから、目が釘付けになってしまった……


「きみが美知留ちゃんか…あ?!」

「コック長、どうしたんです…かっ?!」

「なにしてんだ? おまえ…らっ?!」


 厨房で先ほどまで戦場のような忙しさだった男たちは、美知留の胸チラに、目が点になっていたのだった。そして……


「あなたたちは、見るなぁぁぁ!!」


ずぶっ! ずぶっ! ずぶっ!


「のぉぉぉぉぉ!!!!」


 美知留と一緒にお客の相手をした女性店員が、厨房の男たちの目つぶし攻撃をしたのだった。そして……


「あんたは、何てことしてんのよ! もう。そんな……」

「あなた……意外と大きいわね。肩こらない?」

「そんなに困らないですよ。でも……たまに肩が凝りますけど……」

「そうよね……」




 そう言って、女性定員は、美知留の胸を下から持ち上げたりして興味津々。そんなタイミングで、美知留を迎えに来たたかやは目のやり場に困っていたのだった……

 それから、たかやに連れられ自宅に戻る道中、どうしても暑いなっていた美知留は、ガホガホしたくなり、胸元に手をやる。

 すると、自然とたかやの視線が美知留の胸元へと向かう……


「ん? たかやさん?」

「あ、いや……」

「ふふ~ん。」

「な、なんだよ……」

「たかやさんの……えっち。」

「ちょっ!!」


 なんだかんだで、美知留の実家での生活が始まったのだった……


【おまけ】


 それは、美知留が厨房で、胸チラをした直後のこと。

 美緒に見つかった美知留とたかやは、一通り怒られた後でどうしてそうなったのか聞かれていたのだった……


「それは、あたしの住んでいたところに関係していて……」

「えっ? 美知留の?」

「はい。あたしの周りは、あたし以上に大きい子がいっぱいいて……」

「えっ?! あなた以上?!」

「はい、そんな子がいっぱいいるので、あたしが好きになった子は、良くとられちゃってたんですよ……」

「それは、災難ね……」


 女の子同士にしかわからない会話。

 男なんて、胸よね~とたかやをちらちら見ながら、美緒が話を進めていた。


「あっ。そういえば。こんなのを作ってみたんですけど……」

「えっ?! 作ったの?! これを?」


 美知留が手にしていたのは、美知留と同じようなメイド服の美緒向けの服だった。

 正直なところ、美緒も興味津々だったらしく、目を輝かせていた。そして、着替えたはいいものの……


「ねぇ。美知留……」

「なんですか?」

「ほんとにこの着方で合ってるの?」

「あってますよ? やっぱり、素材がいいから。ほらっ!!」

「ちょっ?! 美知留!!」


 たかやの前に引っ張り出した美緒の姿は、美知留とは違う色気があった。それは、健康的な美緒の体と、手入れの行き届いた肌つやがより魅力を引き立てていた。


「お、お嬢様……」

「た、たかや……」

「すごい似合ってますよ。お嬢様。」


 たかやに褒められ、まんざらでもない表情をする美緒。


『やっぱり、たかやさんなのよね……』

『はっ?!』


 美知留にちょっとした悪魔のささやきが聞こえた……

 それは、美緒がたかやとくっ付く未来は決まっているのだから、ちょっとだけ刺激を与えても平気だろうということだった。つまり……


『美緒ちゃん……』

『なに? 美知留……』

『たかやさんを挑発してみません?』

『えっ? あ、まさか! あなた!!』

『でも、たかやさんのデレっとした姿。見たくないですか?』

『うぐっ! それは……』

『ほら……さぁ、さぁ。』


 美緒は、見事に美知留の口車に乗る形で、たかやを誘惑して見せた……


「た、たかや……」

「なんですか? お嬢さ…まっ?!」


 ゆっくりと胸元を開く美緒。そして、その胸元にまるで重力が存在するかのように、たかやの視線は吸い寄せられていく……


「み、みたい?」

「だ、ダメですよ……お、お嬢様……」


 たかやの“だめ”という言葉とは裏腹に、視線は美緒の胸元から離れようとはしなかった。そして……


「たかや? 何してんの?」

「へっ? はっ!! 咲夜様?!」

「あんまり、おイタすると、クビにするわよ!」

「こ、これには……理由があって……す、」

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 美緒のたかや誘惑作戦は、見事成功したのだった……

 そののち、美緒と美知留も咲夜から怒られたのは言うまでもなかった……

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