魔法使いへの道
少年は、魔法使いになりたかった。
でも、どうすればなれるのか分からない。
お母さんに聞いてみても、お父さんに聞いてみても、なぜか適当に話をはぐらかされてしまって、なっとくのいく答えを聞くことができなかった。
自分とおなじぐらいの年の子が魔法使いとして大活躍する映画やマンガを見て、いろいろと呪文を研究したりほうきにまたがってみたりしてみたけれどいっこうに魔法が使えるようにはならなかった。
でも少年はたくさんたくさんマンガを読んだことで、少し難しい漢字を読めるようになった。わからない字はテッテイ的に辞書で調べるようにしたおかげだ。
そこでこんどはもっと難しい字がもっとたくさん使われている本を読むようになった。
その本には魔法についてもっと詳しいことが書かれていた。
でも、いろんな種類の魔法についての説明や効果については書かれていたけれど、どうやってそれを学び、身につけていくことができるのかは書かれていなかった。
それでも、少年は想像の中でさまざまな魔法を使う自分の姿を浮かべ、ますます魔法使いへの夢をつのらせていった。
そんなある日、少年は友達に笑われた。
少年は「魔法使いになりたいんだ」と言ったのだ。
友達は初めは冗談だと思ったので、面白がって笑っていたが、少年が真剣に、具体的に魔法についての詳しい話をずらずらとならべたてて話すので、やっとのことで少年が本気だと言うことを理解したのだ。
「ばっかじゃねえの」
と友達は言った。
「おまえ、だいじょうぶか?」
と別の友達は言った。
少年はそんなことを言われたのは初めてのことだったので、予想外の展開になんと言い返せば良いか分からなくなった。少年にとって魔法使いになることは現実的な夢だったのだ。
それからいろいろと議論を交わしていくと、少年は友達たちが自分のように魔法についていろいろと調べたり呪文の言葉をおぼえたりしている訳ではないと分かって、彼らは知らないからそう言うことを言うのだと思った。
「じゃあ、ケンたちは何になりたいんだ?」と少年は聞いた。
「サッカー選手」
「パイロット」
「証券マン」
そこで少年はケンたちにサッカーやパイロットや証券マンのことについて聞いてみたが、彼らはしきりに「かっこいい」とか「すげえ」とかを繰り返し、その話はいっこうに具体的にどうするかと言うことには発展しなかったので、少年は少しがっかりした。
少年は誰よりも勉強していたし、魔法使いになる為の計画も立てていた。
必要なことも分かっていた。化学と物理を学び、古代の物語の原文を読み尽くし、それから世界を旅して秘境の地に残る密教の魔術を修め、それらを融合して新しい自分の魔法を作り上げるのだ。
理由はともかく、少年の両親はとにかく少年の成績が急激な右肩上がりで伸びていくので、まあ良いかと思うことにした。
少年は両親の期待通りに一流の大学に入り、その中でもダントツの成績を収めた。
少年は少年でなくなっても、自分の指先から言葉一つで稲妻がほとばしる日を変わらずに夢見ている。
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