第10話〜私の5年間〜

ホワイトさんと一緒に冒険者になって3ヶ月が経った。


でも、私なりに頑張ってついてきたつもりだけど、どんどんホワイトさんは、私から遠ざかってしまう。


今日の依頼も、ホワイトさんが全部片付けてしまった。

私はただ見てるだけ。自由に生きているはずなのに、とっても心が痛い。


ホワイトさんは優しい。

何もしていない私に毎回報酬を分けてくれる。

でも、その優しさがもっと私を苦しめる。

「・・・わたし冒険者やめようかな。」

宿屋のベットに寝転んだ私は、今日もまた、そんな言葉が自然と出る。

もう、貴族だった時の私はもういない。誰にも縛られない自由な状態だ。


でも、貴族から奴隷に、奴隷から平民になった私は、自分で生きていかねばならない。

誰かに頼らず、誰にも負けずに。

それが、自由と引き換えに知ったこと。


「自由って難しいな・・・。」


ホワイトさんの顔が脳裏に浮かぶ。私ってお荷物ですか?そうホワイトさんにいっそ聞いてしまいたい。


「でもホワイトさんは私が望んでいることは、言ってくれないだろうな。」


どれくらいたっただろう。もう朝がやって来て陽の光が部屋を照らし始める。

そして、階段から足跡の音がしてこちらへ誰かがやってきた。


「ミディさん?起きてますか〜?朝食の準備ができたので、降りてきてくださ〜い。」

「・・・はい。」

私の前に、この宿屋の娘のアミが、私の部屋に入って来て気づく。

(そうか、こんな時間まで私は・・・。)


「ねぇあなたは」

「え?なんですか?」

「い、いえ。何でもないわ。」


しまった!と私は思う。

アミの姿がまるでもう一人の私のように見えて、ふと聞いてしまった。


「もぅ、ミディさん体調悪そうですし、何かあるんだったら聞きますよ?」

「ほ、本当?」

彼女の瞳が私を心配そうに見ている。そんなに私は今酷い顔かしら?

でもそんなことより、私は何故か彼女は私が知らない答えを持っているかもしれない。そう思って。


「ねぇ、アミさんは、自由ってどんなものだと思う?」


「自由、ですか?」

そんなに困った顔をしないで。私がおかしいみたいじゃない。いえ、本当におかしいかもね、私。

「えぇ。毎日が全て、自分のやりたいことが出来る。」


「えっと普通にその時間を毎日楽しく過ごせばいいのではないですか?」


「確かにそう。でも、もし自分にとって楽しく過ごせることが、今の自分じゃ到底できなくて、逆にそれを無理にするごとに、自分の無力さを痛感してしまう。そんな時、あなたならどうする?」


「・・・ミディさん。それはそのことから離れて自分の楽しいと思えることを増やせばいいんじゃないですか?」

「・・・つまり、私が逃げろと?」

震える声で私はアミさんに聞く。でも私は次に言われることがもう分かってしまっていた。だから、涙を流しそうになって。

でも、そんな私に気付かないまま、アミさんは言ってしまった。

「はい。だってそんなの楽しくないじゃないですか!」

「どうして・・・。どうしてそんな簡単なことが言えるのよ!!」

「え?」


あぁ、アミ、ごめんなさい。もぅ私は止まれないの。


「あの人が、・・・ホワイトさんが私に何でもしてくれるのに、私は何も返せないままそこから逃げる?

私はそんなの許せない、自分が絶対に許せない!

なのに、どんなに頑張っても私はあの人に何もすることができない。

・・・ねぇ、教えてよアミ。私はこれからどうすればいいの。お願いだから、教えてーーー。」


分かってる。私が本当に聞かなきゃいけないのは、アミじゃないって。でももう無理。私一人では、もう何をすればいいのか分からない。

私が・・・私は何をすればーーー。


そんな私に彼女はまるで遠い日の自分を見ているように、言い聞かせるようにこう言った。

「ミディさん。私、実は本当のお父さんとお母さんは亡くなっているんです。」


ーーーえ?ーーー


衝撃だった。彼女が何を言っているのか分からなかった。だって彼女はあんなに幸せそうにしてたのに。


「3歳のころ、私のお父さんとお母さんは冒険者で、魔物にやられちゃって大怪我をして帰ってきました。

そして、そのまま帰らぬ人になったんです。」

「・・・アミ、あなた。」


でもそれは、いつしかホワイトさんが言っていた話とよく似ていた。


「私、その時はずっと病院の一部屋で泣いていたんです。これからの不安。だんだん冷たくなっていくお父さんたちの体温、魔物に対する恨み。」


『俺はその時絶望した。3歳年下の双子の妹と、10歳の俺が一体これからどうすればいいんだ。全てを奪った魔物を今すぐ殺しに行きたかった。


ーーーだが、ある存在に出会った。』


「・・・でもそんな時、私の手を優しく二人が握り返してくれて、

ーー大丈夫。アミはきっと幸せになれる。ーー

ーーあなたはきっといいお嫁さんになれるわ。ーー

そう、言ってくれたんです。すごく悲しかった。でも、その言葉で、私を取り巻く負の感情はいつの間にか無くなってました。

そして、それからどれくらいか経ったあと、二人はそのまま笑顔で天国に行っちゃいました。」



私は黙って聞く。きっと彼女は私なんかよりずっと重いもの、を抱えて生きてきただろうから。


「私思うんです。きっと自由とか楽しいことの延長線上って、いつか、『よかった。』とか、『幸せだ。』とか言えることだと思うんです。

だからーーミディさんの自由って、楽しいですか?」


「あ。」


『ミディ、お前の好きなように生きろ。』


そうだ。私が、ホワイトさんが本当に望んでいたものって。


「きっと、そのホワイトさんって人もミディさんの『幸せ』を願ってるんだと思いますよ!」



「アミ・・・ありがと。」

「いえ、この宿に止まって頂いてるミディさんの手助けをするのも、私の役目ですから!」

そうやって彼女は自分の胸に手を当てた。

そんな仕草が面白くって。

「ふふ。」

「あぁ!笑いましたねぇ!」

「ご、ごめんなさい。あまりにもアミさんが面白くって。」

「もう、ミディさん酷くないですか!?」

「そうかしら?でも、私決めたわ!」

「え?何がですか?」

「武者修行よ!3年間、色んな山にこもって、魔物たちをギッタギタにしてやるわ!」

「えぇ?いや、それはやめた方が。」

「もう決めたもの!そうじゃないとあの人の左に立てない!・・・それに、それが私のいつか来る幸せのためだもの。」

「・・・意思は固いようですね。」

「えぇ。だから、アミ。・・・3年後まで、私のこと覚えていてくれる?」

「あったりまえじゃないですか!自慢じゃないですが、私はこの宿屋に来てくれた人の顔は全部覚えてるんです!ミディさんみたいな人、忘れたくても忘れませんよ〜。」

「酷くない!?」

「えへへ。お返しです!だから、私が忘れないように3年後またここを使ってくださいね!」

「えぇ。その時は絶対に使わせて貰うわ!ぼったくったら承知しないからね!」

「うふふ、それはどうでしょう?」

「な!?このー!!」


その日から、私は3年。色々な山のヌシに挑んだり、

魔物たちを狩りまくったりと、正直、人間を忘れた3年を送りました。


時々ホワイトさんがやって来て私にクリーニングをかけに来てくれたり、食事を振舞ってくれたりはしてくれていましたが、この3年で、私は本当に強くなりました。


ホワイトさんが言うには【到達者】の称号はこの時に私は手に入れてたそうです。

そして、それからさらに2年。私は今、ホワイトさんとのパーティーで、SS級冒険者として王都で名を馳せています。


毎日色んな指名依頼が舞い込むので、私の懐は温かいどころか溶岩です。

正直貴族の時よりも何倍も持っていますが、私のその持っているお金は一向に減る気配はありません。


なぜって?


「こんな安い宿にいたら、減るもんも減りませんからね。全く宣伝もしてあげていると言うのに。」

「な、何を〜!ミディちゃん言ったなー!!」


私が住んでいる宿には、こう書いています。

『SS級冒険者魔帝ミディお気に入りの宿!』


「本当にアミはちゃっかりしてんだから。」

「当たり前です!だって私は宿屋の娘なんですから!」

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