シスコンの最強冒険者とブラコンの美少女姉妹は幸せに生きたいのです

@kashisaki

プロローグ〜拝啓、父と母が亡くなりました〜

今から数日前、僕の父さんと母さんは亡くなりました。

死因は魔物に襲われて死んでしまった事故死。

この国では魔物や動物に襲われたりした場合は事故死とされます。なので父母が亡くなったのは、どこでも有り得るであろう日常的なことです。


既に魔物は冒険者の方々に討伐されて、数日後に僕の父母の葬式が行われました。


教会内の外は雨が降っていた。教会の神官様は僕の父母が入った石で作られた箱に、何かよく聴き取れないことばを永遠と続けていた。

だけど、僕にはそんな言葉は一切聞こえていない。

今は、こぼれ落ちそうな物を我慢するのに精一杯だった。

そんな時、先程より少し大きめに神官様が促した。


「では、ここにマール・サテラ、ノイル・サテラが永久の眠りにつき神のもとへと旅立ちます。

では皆さん。最後の言葉をかけてあげてください。」


教会の神官様の言葉通り、僕は父母のもとへと歩を進める。


そして2人が入っている石で作られた箱をゆっくりと開け2人の顔を見た。

そこには、魔物に殺されたとは思えないほど今にも動き出しそうな父母の亡き姿があった。

僕はまた、出てきそうなものを必死で堪える。

恐らく2人のために色々としてくれているのだろう。

だけど、その優しさが僕にとってはこの負えない苦痛で、さっきよりさらに辛くなってしまった。


それでも、少しでも言ってあげたい。なるべく普段のように。


「きれいだね母さん。普段はお化粧なんてしないから今までで一番きれいだ。父さんは、まぁかっこよくしてもらったのかな?2人とも変にケチだから、もしかしたら怒っちゃうかも。


・・・(ポツッ。)


あれ・・・ダメだな。ちょっと僕、今おかしいや。目にホコリがいっぱいついちゃってる。母さんの化粧がこれだととれちゃう。早く済ませないとね。



・・・父さん、母さん。僕しっかり生きるよ。2人のぶん。いっぱい。」


僕にしては、合格点なのかな。


背中を向ける。もう見る必要なんてないから。

向かう時よりも帰りがやけに体が重く感じる。


「男なら全部背負って生きろ。過去のことなんて考えないで今のことを考えろ。そうだよね、父さん。」


それに、僕には守るべき人がいる。大切な・・・。父さんと母さんがいない今、最も自分よりも大切な。


「「お兄ちゃん。」」


僕が席につくと、右側から2人の可愛い声が聞こえる。


「大丈夫、お兄ちゃん?」

「ハンカチどうぞ。」


「マリアル、大丈夫だよありがとう。コハルもありがとう。」


「「うん!」」


「行ってくるね。(きます!)」


僕とは裏腹に父母の所へ早足で向かう女の子2人。

マリアルとコハル。

僕はそんな2人を見て正直安堵していた。

2人は義理と言っても父母が亡くなったんだ。年齢差もあり、僕以上に悲しむと思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。

亡くなった当時はすごく悲しんでたし、本当に良かった。子供は凄い勢いで成長する。

大人とは時間の感覚も遅いとか、どこかの有名な教授も言ってたし。

きっと、僕にとっては数日でも、あの2人にとっては数ヶ月分なのかな。

でもそしたら僕より父と母と長い時間を過ごしたことになるけど。


「あっ。」


ふと、2人をみた。2人の目を。



「僕も成長しなきゃな。」


もう、僕の顔には鼻水とか、色んなものでぐちゃぐちゃになっていた。溜めていたものが一気に溢れる。


ただ僕は誰にも見られないように、教会の外へ出た。



そんなことを思いながら、葬式は進み、終わる頃には夜になっていた。

でも、帰る訳じゃない。

妹たちには先に帰らせることにした。


僕は長男ということもあって、最後の1人がいなくなるまで、父母の墓で来てくれた村人の人達一人一人にご挨拶をする。


もうすっかり夜だ。



「それじゃあね。」

「はい。父母のために今日は来てくれてありがとうございました。」


(これで、あと一人か。だいぶ長くなってしまったな。

妹のご飯もあるし、走って帰るか。)


そんな時、最後の人の顔を見て僕は内心とても嫌な思いを抱いた。

その女性と目があい、女性はこちらを向いてニコッと微笑み僕の前へやってくる。


「・・・今日は父と母のために来て頂き、本当にありがとうございました。」

何度目か分からない言葉をかける。

目の前の女性はこの村の村長の奥さんのクレ・ソッタさんだ。


「あら、これはどうも。よく出来た息子さんだこと。あなたのお父さんとは同期だったから、私も今日は来させてもらったわ。でもそんなことより、あなた、大丈夫?」

「・・・えっと、何がでしょうか?」


疑問を疑問で返すのは失礼に値するが、よく話が分からなかったため、言葉に出てしまった。


「あなた、これからどうするのよ。確かえ〜っとユマくん、あなた今年で10歳でしょ?

それにあの双子も多分6、7歳に見えるわ。これからそんな3人でどうするっていうの?」


「冒険者になろうって思ってます。」


「ぼ、冒険者!?ダメダメダメ、考え直しなさい。あなたはまだ子供、そんな簡単になれるもんじゃないし、なれたとしても・・・死んじゃうわよ。」


僕の返答の無謀さに、思わずそう口にするクレさんに、僕は正直嫌な予感がした。なんでこの人がそんなに心配するんじゃなく、慌てるのか。

だが、僕はこの道しか正直残っていないと思っていたため一歩も引く気がない。

そんな訳で、僕自身も思ったことを素直に話すことにした。

「なら、何をすればいいのですか?道でマッチでも売ればいいのですか、そんなことをしたって売れるはずがありません。誰かに頼ればいいですか、こんな廃村寸前の村に僕ら3人を追加で育てることができる人なんて、それこそ商人で景気もよかった僕の父母しかいない。自分のみも削るようなことをしてくれる優しい天使様なんてもう存在しません。」


僕の思わぬ反撃にたじろぎはしたが、その言葉を待っていたのか、クレさんは余裕を見せる笑顔で解決策を提示する。


「なら、この村の鉱山で働かない?収入は3人ならやりくりすれば生きていける金を出すわ。それに鉱山で鉱石を見つけたらその1割はあなたにあげる。どう?やらない?凄くいい提案だと思うのだけど。」


最初から僕らが路頭に迷うことを分かっていて、ここに参加したのだろう。

父さんいきなり壁に衝突したよ。


「目的はそれですか。それこそ冒険者になった方がいい。鉱山で働くなんて奴隷のようなものです。それに、あそこはもう鉱石なんて残っていないのでは?

現にここ数年は一切鉱石の一欠片すら、見つかっていないそうではないですか。」

「なぜそれを、・・・いえ、見つかるわ。それにあなたは受けなければいけないはずよ。冒険者になるにはこの村では今は私の、村長の許可が必要。あなたは結局その道しかない。」


遂に強行手段にでたクレさんをひと睨みするが、どこ吹く風と流される。

このままでは僕や最悪マリアル、コハルまで鉱山で働くことになるだろう。そんなことになってしまえば、どんなに足掻いたとしてもあちらが圧倒的有利になってしまう。

「別に今決めなくてもいいわ。あなたは今とても気持ちが穏やかでは無さそうだし、また明日聞きに来るわ。まぁ商人だったあなたのお父さんお母さんがいない今、あなたにとれる行動はもう決まってそうでしょうけど。」


そうやって僕に背を向けて教会から去って行くクレさんに僕は違和感を覚えた。

なんで僕に考える時間を与える?

優しさからの配慮か、違う。そんな良い人なら、そんな考え方はそもそもしない。

時間がないからか、違う。それなら回答を早めればいいだけ。

急ぐ案件でもないからか、違う。この村は廃村寸前。そんな余裕なんて無いはずだ。

ならなんだ。僕に時間を与えた理由。その時、僕の頭の中に一つだけ可能性というか追い詰められたからなのか言葉が過ぎった。

『お兄ちゃん?』


そうか・・・。僕に時間を与えたのはこの話の後、2人に合わせることで、僕に罪悪感を生ませるため。

つまりクレさんは僕が鉱山の仕事をすると確信している。だけど、無理矢理やらせるとあとから僕が反旗を翻すかもしれない。

なら、自分で決断させた方がその心配が無くなると言うことか。

そして、もうひとつわかった。

僕はこれでも10歳だ。恐らく大の大人が鉱山で働くよりも何倍も遅れをとる事になるだろう。なのに、僕を誘うのは何故だ。

それは、都合が良いからだけじゃない。僕しか雇えないからだ。

そして、この先僕が何も成果が出せなかったその時、

クレさんは僕や、妹達を売るつもりということか。

考えが誤っていた。クレさんは、この村の事なんて一切考えていない。

なら、僕はこの村から抜け出せばいいのか?冒険者に登録するためには、村長の許可が必要。

村長だった人は僕が生まれて何年かたった頃に亡くなって以降、クレさんが村長だ。まず無理と言える。


僕はどうやってこの問題を解決すればいいか、迷ったが、取り敢えず教会をでて、家へと向かうことにした。僕らの家は村の近くの山にあって村とは少し離れている。

・・・父さんがこの場所の方が商人としての交流が良いからそこに僕らの家があった。


「遅くなっちゃったな。マリアル達怒ってるかも、早く家に帰って美味しいご飯作らなきゃ!」


sideクレ


あの子と別れてから私は準備に取り掛かる。

「さて、奴隷商がこの村の近くを通るのは今から一月後くらいかしら?

あの子には悪いけど、しょうがないわよね〜。あの宝石を見ちゃったら。」


そんな醜い笑みを浮かべているクレの指には赤く光る宝石が付いた指輪があった。

暗い彼女の個室の一つだけある窓から照らされた月明かりがその宝石を反射して、彼女の顔へ止まり、そして赤く染る。


「今回はどれくらい売れるかしら?」


彼女は元貴族令嬢クレ・レブノストゥ。

王国で大小、様々な犯罪を犯した彼女の家系は彼女以外は見せしめで処刑され彼女は国外追放となった。

そして、流れたこの辺境の村で村長と結婚したものの、幸せな家庭などそこには生まれず村長は原因不明の病で亡くなり、クレだけが残ってしまった。

だが原因不明の病とは名ばかりでこの村の全てを手に入れるため、クレが持ってきていた毒物で村長を殺したのが本当の事実だ。

村長が亡くなってから、村では子供が中心に次々と姿を消す事件が起きた。その犯人もクレである。

村長の妻というコネクションを使い、既に様々なことに手を染めている。

だが、最近はクレも大人しくなっていた。それはこの村の子供が激減していたからだ。

クレも流石に危機感を感じ、子供たちを連れ去る行為は控えていた。


そんな時、ユマ達の父母が亡くなったということが彼女の耳に入る。

結果はこの通り、彼女はユマ達を次の標的にしていた。


「ふふ、最後の数日間。有意義に過ごすといいわね。ユマくん。」


その時のクレの顔は人の皮を被った悪魔のようだった。



sideユマ


「なんで、なんでなんでなんで!!」


「ガバゥ!!」


僕は今、全力で森の中を走っていた。

だんだんと乱れる呼吸、恐怖で視界が悪くなる目、そして、後ろでだんだんと距離を詰めるブラッグウルフ。


「ガバワァ!ギャウン!!」


「来るな!!」


森の中で拾った木の枝を使って、ブラッグウルフの顔面を思い切り叩く。

だが、ブラッグウルフは顔を何度か振り、もう一度僕に突進してくる。


「うっ、なんで。今までブラッグウルフなんて魔物、森から降りてくるなんてこと、無かったじゃないか。」



でも、逆に今まで考えていなかったのがそもそもおかしかった。動物や魔物は森に住んでいると言っても、森から降りてくることがありえない事なんて普通ない。群れの繁殖だったり、新たな新境地に行こうとする生き物としての本能があるはずだから。

じゃあなんで、今になってブラッグウルフが僕を襲ったんだろう。


だが、そんな事なんて考えていられなかった。


遂に、ブラッグウルフに捕まってしまったからだ。


「い、嫌だ。僕は、僕は、やだ、嫌だ!!!」

「ガバゥ、ガバゥガバーーーーーーー


僕は意識を失った。と言うより、首に噛み付かれた。



つまり、死んだ。





































そして、目覚めた。力が。

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