ツクモガミとお片付け4
引き出しの中では、マスキングテープのオバサン付喪神が腕組みをして立っていた。
「どうやら私の出番のようね!」
「えっ?」
「いいこと?長いこと借りてた本を返すなら、ちゃんと袋に入れて可愛いマスキングテープで留めるべきよね。私みたいに可愛いマスキングテープで!」
「だったら俺が切ってやるよ、オバサン」
ハサミの付喪神が出てきた。
「まあっ! オバサンですって!? ちゃんと綺麗に切れるんでしょうね?」
「俺に任せときなって! スパッと切ってやるぜ。な、晴香」
「だったらいいんですけど。まあ手で千切られるよりはましだわね。そう言えばこの引き出しの中に可愛い便箋があるのよ。長いこと借りてたんだから、お礼のお手紙を書けばいいと思うわ」
「オバサン、そりゃきついって。今どきは長い手紙とか流行らないんだぜ。付箋にありがとーって書いて貼っときゃいいんだよ」
「それはさすがにどうかしら。私、付箋を貼り付けられるのは嫌よ」
本の付喪神も一緒になって、晴香そっちのけで話し始めた。
あまりに賑やかだったからか、一番上の引き出しからも声が聞こえてきた。
「開けて―」
鉛筆の付喪神の声だ
「ごめんね、うるさかった?」
「ううん。楽しそうだから目が覚めちゃった。ボクがお手紙書きたいなあ」
「お手紙……やっぱり書かないとだめかな?」
「書いたほうがいいと思うよ。だってお手紙貰うと嬉しいよ?」
付喪神が首をこてっと傾げて晴香を見上げる。
「なんて書いたら……。短くてもいいかな」
「うんうん。短くても良いと思うよ」
「ちょうどいいぜ。晴香、これに書け」
二番目の引き出しの中で、ハサミの付喪神が隅っこを指さしている。そこにはちいさなメモ用紙があった。一枚ずつ切り離せるタイプのメモ用紙で、高校の時に流行ったウサギのキャラクター。
そういえばよくこれを使って授業中にお手紙書いたっけ。
取り出してみていると、また付喪神たちが賑やかに話し始めた。
「これなら書くのも少しでいいわね」
「なんて書くのが良いと思う?」
「そうねえ。前略、正志さま、お元気でお過ごしのことと思います?」
「ぶはっ」
「じょ、冗談よーあははは」
そんな会話を聞きながら、深緑色の短い鉛筆で手紙を書く。
長く借りてて、ごめん。
ありがとう。
悩んで悩んで、たった二行の手紙だ。
「半年もたっていきなり本が届いたら、きっと驚くよね」
「でも借りたものはちゃんと返さなきゃ」
「うん」
あとは付喪神たちに言われるがままに、袋に入れてマスキングテープで留める。
「綺麗になったわねえ。私のマスキングテープのおかげだわー」
「うふふ。そうね。ありがとう。ハサミさんもエンピツさんもありがとう」
本の付喪神は他の付喪神たちに挨拶してから、晴香に向き直った。
「じゃあね、晴香さん。いろいろとお話しできて楽しかったわ」
「うん。私も楽しかった」
「何回も読んでくれてありがとう」
「そんなふうに言われると、寂しくなるよ」
「うふふ。そうね。じゃあサヨナラは言わないわ。会いたくなったらまた正志さんから借りて頂戴」
そう言うと、本の付喪神はすっと紙袋の中に消えていった。
◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます