第1章 ガイナックス事件
事の発端であるガイナックス事件は
2019年10月に就任したガイナックスの新社長が
2019年2月6~23日にかけて、足立区の自宅マンションで、
「芸能人として写真を撮られるための訓練」と称して、
自分が役員を務める声優育成会社と契約した10代女性の上半身を裸にして
写真撮影し、触ったという準強制わいせつ罪の疑いで逮捕されたものである。
マスコミは「エヴァのガイナックスの社長が逮捕」と一斉に報道。
逮捕されたガイナックス社長が一般的に知られていないため
読み方によってはこのガイナックス社長は庵野監督と思われる可能性がある。
マスコミは話題性を上げるためあえてミスリードするかのような報道を行った。
そもそも庵野監督はガイナックスを退社しており、
ヱヴァ新劇場版に関しては版権関係も含めて
新たに立ち上げたスタジオカラーのものである。
エヴァンゲリオンと今回の事件は全くの無関係であるが、
ファンの待ちわびた新作映画公開を前にして
一部の仕事が中止になるなど各方面で影響が出ている。
こうした状況でマスコミ報道の在り方に対して
庵野秀明の怒りの特別寄稿が公開され、
その中で古巣ガイナックスとの確執を吐露し、
ダイコンフィルム時代(大阪芸大)からの
旧友との決別を宣言する事になったのである。
ガイナックスは学生サークルの延長のような
アマチュア集団から伸し上がった会社であり、
作家自身が経営に携わった末に倒産した手塚治虫の虫プロ経営の反省のため、
作家陣が積極的に経営に関わらないようにしていたが、
作品と共に知名度を上げ、
エヴァブームによって今までにない莫大なお金が流入してくると
その使い方に問題が出てきた。
2代目社長の澤村武伺は脱税により東京国税局に告発され、
代表取締を辞任し退社している。
この後を引き継いだのがガイナックスの処女作
「王立宇宙軍オネアミスの翼」の監督だった山賀博之である。
庵野監督も大学時代から友人である山賀前社長の頼みもあって、
名前だけ役員に籍を置いていた時期もあったが、
経営方針の違いから2007年にガイナックスを退社、
新会社カラーの設立とエヴァのリメイクという流れになった。
旧作のエヴァに関しても「エヴァは庵野のものだから」という事で
ガイナックスが一定のロイヤリティをカラーに支払う事で合意していたが、
2012年頃、ガイナックスは経営難に陥りロイヤリティ支払いも滞るようになり
その滞納額は約1億円にまで膨れ上がっていた。
2016年に庵野監督は作品を守るために
ガイナックスに対して1億円の支払いを求めて訴訟に踏み切っている。
庵野監督とガイナックスの確執は誰の目にも明らかとなった。
2014年から2016年にかけて、ちょうどガイナックスが経営難に陥ったころに
相次いで「ガイナ」を名乗る新会社が日本各地に作られている。
当初、ガイナックスの支部と目されていたが、
ガイナックスと資本関係もなければ庵野監督との関りも一切ない。
しかしガイナックス裁判によって作品の資料と版権が
ガイナックスから福島ガイナに売却されていたことが判明し、
カラーがそれを取り戻している。
こうした経緯を経ていく中で新劇場版における
カラーとガイナックスとの関係も序・破・Qと進むに連れて弱まっており、
庵野監督の鬱症状や制作の遅れに影響していた可能性も否定できない。
ガイナックスは確かに90年代を代表するアニメスタジオであったが、
現在、「エヴァ」の庵野監督はガイナックスを退社して
スタジオカラーを立ち上げており、
主力メンバーの鶴巻和哉、摩砂雪らも追随しカラーへ移籍。
庵野監督が去った後のヒット作となった
「グレンラガン」を制作した今石洋之など若手スタッフもトリガーとして独立、
ガイナックス本体は抜け殻の状態と言っていい。
しかし、ガイナックスは会社を存続させるために
ほとんど赤の他人と言ってよい人物を社長に迎えた結果、
私利私欲のためにガイナックスブランドが犯罪に利用されたのである。
この事件を受け、ガイナックスは経営陣の総入れ替えを行ったが、
新生ガイナックスの船出はなかなか厳しい現実がある。
放火事件という災難に見舞われた京都アニメーションと共に
一つのアニメブランドの失墜を象徴する出来事だったと言えるだろう。
ガイナックスのアニメーション制作部門は
既にスタジオガイナ(旧福島ガイナ)に移動。
スタジオガイナは2018年に
90年代から企画されて延期が続いていたオネアミスの翼の続編計画
「蒼きウル」をガイナックスから引き継ぎ
監督山賀博之、キャラデザ貞本義之というオリジナルスタッフで
2022年劇場公開を目標に制作を発表し、
発表に合わせて八王子で「オネアミスの翼展」を開催。
また「トップをねらえ3」(仮題)の制作も発表した。
本来であればファンにとっても喜ぶべき続編企画であるが、
この寄稿文を読めば複雑な心境にならざるを得ない。
「トップをねらえ!」「トップをねらえ2!」の
「!」マークが抜けている所が意味深である。
庵野監督の大阪芸大時代、
青春を共に過ごした友人たちとの関係は破綻した。
日本SF大会でのダイコンフィルムの活躍を知っている
自分としても残念でならない。
人と人との関係はお金が絡むとこうも易々と壊れてしまうのか…
漫画「アオイホノオ」や「シン・ゴジラ 発声可能上映」など
今になっては大芸時代、ダイコンフィルム(ガイナックス)メンバーとは距離を置き
ライバル的関係だった漫画家の島本和彦との関係が唯一の救いと言える。
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