黄昏の時代から遥か未来(追憶の旅人ルートエンディング)
そこは石造りの塔の最上層だった。
桜は床に倒れていた。
一体自分の身に何が起こったのだろう。
この塔に至るまでの記憶が判然としない。
桜は石の床に手をつき、その身を起こす。
四方は石壁に囲まれ、桜の前方に階下に降りるための階段が見える。
桜は天を仰いだ。
澄み渡る青空。初夏の陽射しが心地よい。一陣の風が桜の髪を揺らした。
また、救いと称し、この世界の人々を滅ぼしてしまったのだろうか。
遠い昔に交わされた盟約。イスタリアスで仲間と暮らした日々が懐かしく思えた。
彼らも、一人、また一人と桜の前から去っていった。
いや、自分が彼らを消し去ったのかもしれない。
盟約。すべてを分かった上で自分が引き受けたはずなのに。
その時、一人の少女が階段を上がって、桜のいる部屋に現れた。肩で息をし、部屋の中央にいる桜に気付くと呼吸を整える素振りも見せずに小走りに近付いてきた。
「やっと見つけた。貴方がこの世界を作ってくれたんでしょ。私達みんな幸せになったよ!みんなあなたのおかげ。本当にありがとう」
少女は満面の笑みで桜の手を引っ張った。
どうやら、階段を降りるよう促されているようだ。
桜は少女に手を引かれるまま、階段を降りる。
一体この少女は何を言っているのだろう。
階段を降りていくに従い、人々の歓声が階段の下方から聞こえた。
多くの人々がこの塔を取り巻いているようだった。
人々の声は喜びに満ち溢れているようだ。多くの人々の歓声で石造りの塔が震動しているような錯覚さえ覚えた。
塔から出ると、桜は多くの人々に囲まれた。
皆、桜に感謝の言葉を告げる。
ある者は泣き、ある者は喜び、そのすべてから桜は感謝された。
彼らの世界は、滅びの道を辿っていた。
彼らが神と仰ぎ永きにわたり信仰してきた太陽がその生を終えようとしていたのだ。
もはや、地上に人の住める場所はなく、人々は地底でひっそりと生き永らえてきた。
気が遠くなるような時の流れの果てに、一人の少女が生まれた。
その少女は光を見ることは出来なかったが、未来を知ることが出来た。
彼らは知った。
未来に希望があることを。
幾人もの志願者が地上に出ていった。
太陽の最後の輝きの前に、数えきれない人々が太陽から降り注ぐ炎に焼かれ倒れた。
自らの子孫のため、己の命と引き替えに地上に石で塔を建てた。
そして、その時がきた。
「ありがとう」
桜の手を引く少女が立ち止まって、桜に感謝の言葉を告げる。
少女の瞳は閉じられたままだったが、まっすぐ桜の顔を見つめていた。
「私達はもう大丈夫です」
そう言う少女の頬に流れる涙を、桜は指ですくいとった。
桜は、穏やかな陽射しの中で微笑みをかえした。
頭上には新たな命を得た太陽が、初夏の到来を告げていた。
THE END
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