夢魔の少女に魅入られた少年が、彼女のために記憶を差し出すお話。
より正確には、夢魔の〝餌〟となる記憶を手に入れるべく、別の少女と思い出づくりに励むお話。
青春の日の小さな成長を描いた、爽やかで甘酸っぱい物語でした。一種のラブコメ、または恋愛ものであるとも思います。
どこかうら寂しい、ある種の残酷さのようなものも含んだ展開(および結末)だと思うのですが、それでも誰ひとり損はしていない(一応)というのが興味深いです。三方一両得。
とはいえ、それがただの役得に終わらず、「本当にそれでよかったのか?」と考えさせられてしまうところが好きです。
何より大切にしていたはずの、他者への初めての想いを失ってしまったことを悲しむべきか?
夢の世界への執着を捨てて、現実世界に根を張れたことを喜ぶべきか?
少し寂しいような、それでも幸せなような、独特の余韻。そこに残された小さな問い。とても綺麗な物語でした。