第一部 第7章 ついにチェリー卒業か!?

「しょうがねぇな。じゃぁ話すか」

  夕は面倒くさそうに腰かけていたベッドから聡志が座るテーブルの椅子に

腰かけた。

「どこまで話したかな」

「確か同級生が云々くらいでしたかね?」

「『朴佑杏』(パクユアン)の辺りか?」

「そうですね」

「彼女は俺の両親が死んだ『仁川』(インチョン)出身だったんだが、ある時、彼女に俺の両親の話をしてみた。そうしたら、彼女の顔色が変わったんだ。『これは両親の事件と何か関連することを知ってるな』と直感で分かった。だから、以前より親密にすることにした。半分、事件の解明の為に利用したことになるがな。でも、高校時代の数少ない親友だった」

「それで事件との関連性は分かったんですか?」

「分からない。だから、俺はそれを解明する為だけにこの世界に足を踏み入れたと言っていい」

「現状は『朴佑杏』が敢えて日本の芸能界で活躍したいという点から見ると、どうも佑杏本人とこの業界の人間、又は彼女の生い立ちの環境に事件が関係しているらしいという事だけは分かっている。彼女が活動するのは別に日本で無くても韓国でもいいわけだし、韓国で実績を作ってからでも遅くはない筈だからな」

「ふーむ、中々難しいお話ですね。先ずは『朴佑杏』という方の詳細を調べないといけないですね。他に高校時代に分かった事はあったんですか?手がかり的なものとか」

「彼女が仁川出身である事、日本の芸能界を敢えて選んでいる事、あと・・・」

夕の目がかなりうつろになり、体も左右に揺れている。

「夕さん、無理しなくていいですよ」

「なに?せっかく俺が話をしてるのに腰を折るつもりか?」

「そんなことないですよ。明日もありますし、もう寝ましょう」

「寝るだと?俺と寝てみる気になったか?ついにチェリー喪失だな。しかも相手は俺だぜ!?おっさんも幸せ者だな」

「そんなわけないでしょ。もうかなり眠そうですよ」

 夕はシャンパン片手に徐に上着を脱ぎだした。

「な、なにしてるんですか?」

「普通に着替えるだけだが、何か文句あんのか?だって寝るんだろ?」

「そ、そうですけど」

「おっさんは着替えないのか?」

「夕さんが眠るまで着替えませんよ」

「なんだ?俺じゃ不満なのか?」

 シャンパンを持ちながら、全身下着姿になって聡志の膝の上に腰掛けた。すると聡志の左腕を取り上げ、肩に顔をうずめて自分の胸に押し当てた。聡志は言葉を失った。

「どうだ、俺の胸は大きいか?」

  聡志は完全に夕に主導権を奪われている。ぐいと、更にシャンパンをあおると聡志の首に両腕を掛けた。と、同時に聡志にもたれ掛かる様に眠りに落ちた。

「ふう。やれやれ。さて、どうしようか。こんな状態では動こうにも動けないな」

 ぽりぽり髪の無い頭を二、三回掻いた。大きな窓ガラスから、薄明るい日がもう差していた。

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