色盲の王子と糸
第7話 リュックが手に入れた力
―――とあるダンジョンの奥―――
「ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、見渡す限りゴブリンだな。手を伸ばせば攻撃が当たるぞい!」
全身を重厚な鎧で固めた
前方から湧き出てくるゴブリンの数が多い。まるで出鱈目な攻撃だが、それでもゴブリンの数を減らしてくる。
それでも前衛の脇をすり抜け、後衛のエルフに向かって駆け出すゴブリンも少なくはない。
(魔法……いえ、間に合わない)
エルフは
最弱の魔物と言われるゴブリンであるが甘く見てはならない。
なんせ、数が多い。 1匹2匹と倒しても次から次へと現れる。
それに彼らは単純な武器を使うことができる。
岩と岩を叩きあって作った原始的な斧や槍。
もしも、鎧の隙間に一刺しされ、不運に見舞われば命も落としかねない。
「すまん、フォローが遅れた」と
剣を抜くと正確で素早い突きを駆使して、ゴブリンたちを蹴散らしていく。
一方、背後のエルフも、ただ守られているわけではない。
『凍てつく精霊たちよ、我が魔力を糧にして敵を叩きのめせ――――ブリザド』
エルフの詠唱と共に放たれた吹雪の魔法 『ブリザド』
ワラワラと前進してくるゴブリンの進行を止め、氷漬けにしていく。
「うおぉ、寒寒寒い! 俺ごと凍らす奴がいるか! でも助かった。サンキューな!」
ゴブリンたちと同様に前衛の戦士も氷漬けになっていた。
「ふん!」と力むと氷が砕け、震えながらもエルフに感謝をする。
本来、鉄の鎧が急激に冷えたならば、中の人間は無事ですまないはずなのだが……
「うひゃ、こちゃ良い。大量のゴブリンを押し返して火照った体が冷えて気持ちいいや」
どうやら、前衛の戦士は規格外の人間らしい。
「あぁゴブリンたちを一掃できたな。しかし、情報によると……ここからだ」
敵を全滅させたはずの
そして、そいつは現れた。
ゴブリンでありながら人とオーガの中間のような巨体。
ホブゴブリンと言われるゴブリンの完全上位種である。
その表情は仲間を殺された恨みか、それとも人間に対する強い嫉妬心によるものか?
猫科の大型獣の如く、前衛へ飛び掛かっていく。
「食らうかよ、ばーか!」
待ち受けていたのはカウンター。
左の盾を装備したままでの左ストレート。
盾の
そこら辺の魔物ならば、この一撃で脳漿をぶちまけて絶命するのだが……
ギョロっとホブゴブリンの瞳が動く。 自分の顔面に叩きこまれた戦士の腕を掴む。
「このッ!」と戦士は右の大剣を振るおうとするができない。
どこに隠れていたのか?
2匹目のホブゴブリンがタックルのような動きで戦士に抱きつき、右腕を拘束した。
「しまった!」と
「事前情報で3匹いると聞いていたのに!」
戦士の背後に3匹目が迫ってきている。その手には石でできた棍棒が握られている。
「ちっ!」と舌打ちを一つ。 持っていた剣を逆手に持ち直し投擲を――――
しかし――――
「ファイア!」
後衛のエルフよりも更に後方。放たれた炎の弾丸は
「GAAAAAGUGUGUGUAAAAA!?!?」
一撃目は棍棒を持ったホブゴブリンの右目に直撃する。
不意を突かれ、片目とはいえ視力と光を失ったホブは転倒。
さらに――――
「ファイア!」と2発目。
「ファイア!」と続けて3発目。
それぞれ、前衛の戦士を捕縛していた2匹のホブに直撃。
それも1撃目と同じく目を正確に射抜いている。
「GUGIGOOOOOOOOOOOOOOA!?」
苦痛の雄たけびを上げて戦士から離れた2匹。
その隙を見逃すほど、戦士も甘くなかった。
「このくそゴブリンが!?」
無慈悲に剣は振るわれ、その切れ味は
ゴトリと2つの首が地面に落下した音を残された1匹は、どう感じただろうか?
かろうじて立ち上がり、棍棒を構えなおすが、
「時は既に遅し……ってやつだな」
そいつが振り向く、飛翔していた
交わる視線。それから光……それがホブが見た最後の光景。
光の正体は白刃の煌めきだった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「いやぁ最初に聞いた時は驚いたよ。まさか、急に魔法が発現するなんて」
その人物は、リュックだった。
「助かったぞい、助かったぞい。お主は命の恩人だ!」と戦士。
「でも凄いですね。 あんな距離で正確に命中するなんて、それも無詠唱魔法ですよ! 無詠唱! 正直、私もうらやましい!」
人間よりも遥かに魔の扱いに秀でているエルフの少女も絶賛だった。
リュックは照れながら笑みを浮かべた。
この世界で魔法が使えるようになる主だった方法は2つある。
1つは生まれながら魔法の才能を持った子供が長い期間、鍛錬と勉強を励み発現させる方法。
もう1つは魔導書など、魔具と呼ばれる魔力が秘められた道具を使い、無理やり内部に眠る魔力をこじ開けたり、外部から大量の魔力を注入したり……
リュックが説明したのは後者だ。
彼は、急に魔法が使えるようになった理由として、遠い親戚の遺産相続で魔導書を受け取ったと説明したのだった。
本当はあの日、魔導の塔から帰った日の事だ。
空中に文字が浮かんだ。
『特別称号 塔の魔術師』
すぐさま、リュックは理解する。これが塔が叶えた僕の願い。
憐みを受けないための強さ。
その願いの答えが魔法だった。それはリュック自身が魔法について強い憧れを持っていたからかもしれない。
続けて流れるのは獲得した魔法の説明だった。
『ファイアEX』
無詠唱魔法 飛距離大幅強化 精密性大幅強化 使用魔力半減
自身に内蔵されている魔力の半分を使用してメガ化可能。
「メガ化?」とリュックは頭を捻るが、説明はこれだけだった。
悩んでも仕方がないので、町を離れて人気のない山奥へ。
目的地は大きめの池だ。 ここなら炎属性魔法の検証をしても、誰から見られない。
リュックは池に向かって手をかざす。 そして、強く強く念じ始める。
自身の体内で行われる魔力の流れが確かに感じられた。
今まで存在しなかったはずの魔力の動き。それは勢いよく手のひらに集中していく。
「ファイア!」
その言葉が
瞬時に魔力が炎に変換され、放出される。
手の掌から発射された火球は、狙い通りに池に着水。
その光景にリュックは震えが抑えきれなかった。
「本当に、本当に、この僕が……魔法を使えた!」
両手を広げ、空にある見えない何かを掴むような動作。
それから、歓喜の声を……涙を……
しばらく、余韻に浸るリュックだったが、涙を拭きとり再び池に狙いを定め、魔力を捏ねる。
今度は、よくわからない魔法のメガ化を試すためだ。
やり方は、頭の中に流れ込んでいる。 通常のファイアと同じ……ただ、
「メガファイア!」
手に集中していた魔力。そこに向けて体内の残存魔力が吸い取られていく感覚。
通常のファイアは形を変化していく。それは、それは巨大な球体だった。
その巨大な火球は、真っすぐに飛ばなかった。
一度、リュックの頭上へ急上昇して、そこで留まってた。
「これは……もしかして……ファイア!」とリュックは通常の魔法を放つ。
その次の瞬間、頭上で止まっていた火球、メガファイアが動き出す。
通常のファイアが池に着水した後、僅かに遅れてメガファイアも着水した。
「……凄い。メガファイアは放出した後に少し留まって、僕の任意のタイミングで発射。それに加えて動きをコントロールできるんだ」
もっと、もっと、いろんな使い方ができるのじゃないか?
リュックは、新たに手に入れた力を試す事に夢中になった。
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