第5話 チュートリアルの解
新たに現れたオーガ。 その瞳は、ただ1人を見つめていた。
瞳に宿るは怒り、それが彼女に――――レネに定められる。
もしかしたら、
彼女めがけてオーガは拳を振るう。
それを見たリュックは反射的に動いた。
「危ない!」と彼女を押し倒す。しかし、リュック自身はオーガの攻撃線上に残った。
衝撃
体がバラバラになるような衝撃……それから浮遊感。
地面に叩きつけられて、それでも勢いは止まらず2回転、3回転、4回転……
ダメージで圧迫された肺、呼吸器官がせり上がっていく感覚。
体内に溜まった空気が排出できず、新鮮な空気が取り込めない。
……呼吸ができない。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「この野郎!」と素早く動くカイト。
オーガの顔付近まで瞬時に跳躍。
手にした剣は炎を纏い、斬るというよりも叩きつけるような攻撃。
斬撃ではなく打撃。剣器ではなく鈍器。
炎に包まれたオーガの顔。 無音の咆哮が苦しみを表現する。
「何か、現れたか! 何か見えるか!」
地上に残るレネとユノの聞く。 このオーガを倒すためには、炎で燃やし弱点をあぶりださなければならない。
それが、この戦いのルールだ。しかし―――
「ダメよ。何も見えないわ」
「わかりません。こっちも……」
「ちっ」とカイトは舌打ちを1つ。
火で焼かれ、暴れ狂うオーガから離れようと……
だが、できない。
オーガの攻撃――――否。攻撃とも言えず、暴れて振りました腕がカイトに直撃する。
カイトは幸運と不運に見舞われる。
めちゃくちゃな攻撃に当たってしまった不運。 飛んでいたために衝撃を軽減できた幸運。
だが、攻撃を受け、地面へ叩きつけられたカイトのダメージは大。
ギロリとオーガはカイトの姿を見つめ、ターゲットとして狙いを定めている。
そして振り落とされた拳。カイトは、それを剣で受ける。
だが、巨大な巨大な拳。 剣で直撃を防ぐも、体は腰から真っ二つに折りたたまれたような酷い激痛。
オーガはチャンスと言わんばかりに拳を引き、二撃目に……しかし、この攻撃は不発した。
「そう簡単に好きにはさせないわよ」とスラッシャの体当たり。
バランスを崩し、よろつくオーガにダッカ―ドが斧で足を切りつける。
そのまま「坊主、大丈夫か?」とカイトへ近づく。
「大丈夫です。でも、こいつの弱点は……」
「あぁ、燃やしても見えてこない。どういうことじゃ? これは?」
そんな彼らの奮闘。 それを倒れたまま、視線の隅に捉えるリュック。
彼は
『さすれば、現れる あるはずのものが ないものが見えてくる』
と何度も頭の中で繰り返す。
燃やせば現れる。 あるはずの物がない物が見えてくる。
あるはずの物 ないはずの物 2つは同じ物?
あるはずなのにない……もしかして逆なのか?
燃やしている時に現れるのではなく、燃やしている時に消える物がある?
なんだそれ? なにが、一体、なにが消えているんだ?
それに、その正体に気付いた少年は立ち上がっていた。
何かに揺り動かされるように立ち上がり口を開く
「……がっ……げぇ……がはっ」
声にならない声。
そして喀血。 口内は鉄と錆臭い臭いに汚染されていく。
ぽた……ぽた…と音。口から零れ落ち行くの赤と黒が入り混じった液体。
彼は、その全てを吐き出すように声を上げた。
「……げぇだ。 影だあぁ! 燃えてる時に影が消えてる!」
5人の視線が一斉にオーガの影に向けられた。
消えている。
それは当たり前の話だ。炎の光が影を消している。
それは当たり前の現象ではあるが……
「影だ!」とカイトが最後の力を使って駆け出す。
それよりも早く「ファイア!」とスラッシャがオーガの影があるべき場所に魔法を発射させた。
そして、地面に放たれたはずの魔法がオーガを苦しめた。
「当たってないにも関わらず、ダメージが入っている……じゃと」とダッカ―ドは目を丸め……それも一瞬。ここで決めると誓うように手斧を投擲。
斧がオーガの影に……見えないソレに当たり、ダメージを追加させた。
だが、オーガは止まらない。
前線で戦う3人を無視。あらかじめ、そう動くように決められたかのように走り出し――――
弱点を見つけたリュックに狙いを定めての全力疾走。
リュックは動けない。意識を保つのがやっとの状態。
気を抜けば、意識を失い倒れるだろう。
だが、それはオーガも同じ。 もう消えゆく自身の道連れを見繕った結果のリュック狙い。
固く、硬く、堅く……固めた拳を最後の力でリュックへ振るう。
背後からはカイト、ダッカ―ド、スラッシャが止めるために走っている。
スラッシャは魔力を込めて、炎を放っている。
――――だが、もう間に合わない。
しかし――――
「ファイア」
炎に転換された魔力の塊が、オーガの影に吸い込まれるように放たれた。
それを『ファイア』を放ったのはスラッシャではなかった。
放ったのは――――
レネ。
なぜ彼女が魔法を? いや、思い出されるのは先ほどの会話。
そう……切り札として炎属性の攻撃を隠していたのは彼女だった。
「切り札は使うべき場所で使うための物だから切り札。まさか、ここで出し惜しみをして、英雄を死なせるわけにはいきませんわ」
彼女の魔法が決して、高火力の魔法ではない。しかし、一瞬だけでも動きを止めるのに十分なダメージ。
「あぁ、その通りだレネ。ここで英雄を殺させてなるものか」
動きが停止したオーガ。いち早く駆け付けたカイト。
炎を纏った剣を振るい、その影へ向かい――――
剣を突き立てた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「GAAAAGEAAAAAGAGAGAGAGAAAAAA!?」
オーガの咆哮―――いや、断末魔の叫び。
魔物は、完全に動きを止めた。 完全なら停止。
その体は岩のように固まったかのように見えると、砕け落ちて砂のように消えていった。
その直後、勝利を祝うようにファンファーレが鳴り響く。
「……おわったのか? 本当に?」
誰かが、そうつ呟いた。
それが合図となって、みんなはその場に座り込んだ。
濃い疲労を浮かべた顔。だけれども、みんなの表情が笑顔だった。
誰1人として脱落者を生まず、全員が生還した笑顔。
そんな時に――――
「皆様、おめでとうございます」
そういって姿を現したのは老婆だった。
緩んでいた空気が一瞬で張りつめる。 殺意によく似た感情が老婆に向けられる。
しかし、老婆はそれに気づいているか、それとも気づいたうえで飄々としているのか……
殺意を受け流している。そして、老婆の口が動く。
「それでは皆様方の願いを叶えていきましょうね」
その言葉に誰かが、反応した。
「え? これで終わり?」
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