005.あの三角筋はオレの嫁
我ながら恐ろしいスピードで決まった結婚。実に素晴らしい展開だわ。拍手喝采万歳三唱レベルの快挙! 連戦連敗記録を最高の成績でストップ!
私がここにいられる時間は限られていたんだもの、最速で決めていかないとね!
時は金なり。うんうん、本当その通り!
起承転結? 起結で十分よ! 中身は後で詰め込んでおくわ! って言うか後から勝手について来い!
……とは言え、婚姻届提出して直ぐ婚姻が成り立つ
歴史の授業でうっすらしか知らなかったけど、侯爵って、公侯伯子男の爵位で言って上から数えた方が早いのよね。こっちに来てから教わった授業で思い出したわよ。
私ってば聖女召喚のおまけだし、由緒正しき平民だし、身分違いも甚だしいのよね。最初はそれで諦めようかとも思ったけど、好きになっちゃったものはしょうがない。
まぁ、思考停止して筋肉に突進してしまったのは否定しないけど。
私の方は良いとして、アロウラス様が正気を取り戻す前に既成事実まで作った方が良いかしら?
「どう思う? アイリスさん」
赤い顔でアイリスはぷるぷる震えている。
ちょっと刺激強かった?
「ほんっとうに、アロウラス様とご結婚なさるおつもりですか?!」
「アロウラス様と結婚出来ないなら、
ここに用はないのよ。あるのはアロウラス様オンリー!
「勿体無いですーっ!」
「何が勿体無いものですか。アロウラス様のようなマッシブマッチョメンのパートナーになる為だけに生きてきたんだもの」
私の理想が立って歩いて喋るのよ?! しかも自分に好意を抱いてくれてるとか、こんな奇跡を逃す気はないわよ。これを逃したら女が
あの後、硬直が解けたアロウラス様は私にメガネをかけて、おっしゃった。
"メガネを外さないで欲しい。リサ殿の美しさを他の奴等に見られたくない"
きゃーーーーっ!
独占欲って奴?!
私の理想が! 私を他の男に見せたくないって言った!
「はぁ……アロウラス様……」
思わずこぼしてしまったため息だけど、このため息は嫌いじゃないわ。幸せでもため息は出るのね。幸せ過ぎ。
隣でアイリスもため息を吐いてるけど、気付かないフリをしておく。
随分と王太子は機嫌が良いようで、即仕事、とはならず、カウチに座らされた。
「レオニードを怖がらない女性は珍しいからね、何としても二人の間に既成事実を作って逃がさないようにしようと思っていた」
「……それ、本人に言います?」
脳内で全く同じ事を考えていたとは言え、面と向かって言うのはどうかと思う。既成事実って言ったわよね?
「レオニードは見た目こそ淑女に怖がられるが、中身は紳士であり、真面目かつ優秀。家柄も良い。このような従兄の幸せを願わない筈が無い。時間もない事だし、この際手段には目を瞑ろうと思っていたんだが、本当に良かった」
良かったけど良くない! と、脳内でツッコミつつも、応援しようとしてくれた事実はありがたい。方向性も一致してたから許す。
「ご厚意に感謝致します」
王太子の応援があれば、今後色んな障害があっても何とかやっていけそうじゃない? 大事よね、権力のある協力者!
「レオニードに好意を抱いてくれているし、頭の計算も早い。淑女教育は順調だと聞いてる」
淑女教育……?
…………もしかして。
探るように顔色を伺うと、王太子はニヤリと笑った。
「レオニードの妻には必要なものだ。ただの手伝いには不要だが」
最初っからそう言うつもりだったの?! ぐっじょぶよ、王太子!
「騎士団長とは言え、アロウラス家は王家の縁戚。外交を担ってもらう局面もある。頭の回転の早さも必要だ。腹芸もな? だが、レオニードが苦手な分野だ。その点、リサ殿は申し分ない」
鴨ネギは私だった?
「あぁ、アロウラス家は全面的に二人の婚約を祝福している。このままでは一生独身を貫くだろうと思っていた次男が、まさかの恋愛結婚だからな」
「私には後ろ盾がありません。それがアロウラス様にとって不利にならないかが心配です」
満足気に王太子は微笑む。
「リサ殿は私の義妹になる」
……は?
「後ろ盾が王家では足りないか?」
「とんでもございません」
でも、良いの? そう言うの重要だって先生言ってたよ?
「公爵家の養女にしようかとも思ったんだが、面倒だから私の義妹にした」
公爵家に頼めば何かしらの見返りを要求される可能性がある。それが面倒だったって事? 聖女を養女にならまだしも、おまけだし。
「アロウラス侯爵家も、政略結婚を必要としない」
アロウラス様のお父様は宰相をなさってるのよね。権力者ね、間違いなく。
「お義兄様と呼んでくれ」
ほぅ……?
良い感じに俗世に
「オニーサマ、年齢をお伺いしても?」
「31だ。レオニードはオレの一つ上になる」
貴重な情報ね! 心得てるじゃないの。
とりあえず幼く見える日本人としては、年齢問題はそれなりに大事よね。
年下だったりしたら……何か問題あったかしら?! ないわね、ナイナイ!
「よろしく、義妹殿」
「こちらこそ、お義兄様」
婚約期間は一年。
その間に花嫁修行とやらをするらしいわ。ふむふむ。
腹黒王太子の義妹なんかになったりして、さぞかし王宮内はドロドロしてるんだろうと予想する。
そう尋ねると、アイリスが首を横に振る。
「フィルモア王国は殿下の元で着々と体制を整えております。反対勢力に当たるものはこれと言って存在しません。殿下と縁戚関係にあるアロウラス家ご出身のレオニード様は、護衛としても側近としても他国との折衝の場にお出になる方。はっきり申し上げれば、未婚が許されないお立場なのです」
そこへ来たのが私って事?
「誰もが恐れるアロウラス様に、臆面もなく近付くだけでなく、好意を抱かれているリサ様は、希少種です」
珍獣扱いは止めて。
でもまぁ良いわ。お陰で私は理想のマッシブマッチョメンと結婚出来る訳だし、それなら嫌がらせもなさそうだしね!
オールグリーンじゃないの!
「そんなリサ様に、アロウラス様からお花が届いております」
なんでそんな自棄っぱちみたいな顔をされながら渡されなくちゃなんないのよ。
失礼千万ね。
受け取ったのは五本の赤い薔薇。コレ、きっと意味がある奴ね。赤い薔薇よ? 赤い薔薇! 花言葉、愛よ?!
「あなたに会えた事を心から喜んでいます、ですね」
きゅーーーーんっ!
それはこっちのセリフよ、アロウラス様!!
生まれて来てくれて、マッチョになってくれてありがとうございます、アロウラス様!!
それにしても、アロウラス様って普通に垂涎ものじゃない? 侯爵家次男。スペアの次男とは言え、騎士団長。王太子の従兄弟で側近。父親は宰相。
この完璧なスペックで、権力が全ての世界でモテないって、逆に凄いわ。どんだけ見た目に怯えてんのよ。
貴族社会では重要なのは見た目じゃないって教えられてるのに、何でこんなにアロウラス様は不遇なのかしら?
「令嬢がアロウラス様に怯えるのは、獣人のような体躯をお持ちだからです」
獣人!
全身毛むくじゃらだったりするのかしら? 抜け毛が気になるわ……コロコロとかあるのかしら、こっちって。
「獣人はとても野蛮で、血を好むといいます」
ブルブルと身体を震わせるアイリス。
「そうなのね。でもアロウラス様は人よ?」
「ですが!」
アイリスの抗議に被せるように話す。
「ちょっとぐらい野蛮なのは別に構わないわよ。男らしさの範疇ならね。暴力的なのは好かないわ」
DVとかはまっぴら御免よ。それは見た目関係ないし。良い人そうに見えるけどモラハラ人格とか、たまに聞くわよねー。
「つまり、アロウラス様が本当はどのような方かも関係なく、見た目で怖い怖い言ってるって事よね?」
聞くに値しないわね。
人は見た目じゃない、なんて言わないわよ? アロウラス様の筋肉が大好物なんだから!
ただ、それと見た目が怖いから暴力を振るうに違いない、って言うのは同じ話じゃないわ。
「私は怖くないの」
これ以上言ってくれるな、という意味も込めて強く言うと、アイリスはぐっと言葉を詰まらせた。
実際もっと深く付き合わないと分からない事は山ほどあると思うけど、あの様子からして、ないわね。
むしろ何考えてるのか分からない王太子の方が、奇妙な性癖持ってたって不思議じゃないわよ。
「私の事を思って言ってくれてるのは分かるの。出会ったばかりの私の為に。アイリスは優しい子ね。
でもね、私の事を思うなら、見た目だけでアロウラス様を判断しないでちょうだい」
重ね重ね、私はアロウラス様のあの外見が好きなんだけどね? そんな私が何言ってるんだと思うでしょうけど、違うのよ? マッチョなだけじゃ駄目なのよ。性格大事よ!
その点アロウラス様は、私の告白に動揺して逃げ出すようなヘタレだから問題ないわ。はー、可愛い!
顔真っ赤にして、一生懸命告白してくるのよ?! 乙女か! 可愛すぎて悶絶しそう! ごはん三杯いける!
恥ずかしくて堪らないのに、自分の言葉で伝えようとしてくれるなんて、更に好感度アップよ。素直に謝るのも良し。
……所で、婚約者って何処まで許されるの?
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