速報_2

『つかまえなきゃ!』


 返答を見て、バームは困惑した。


「は? 捕まえるって…… そりゃあ今、騎竜隊がやってるだろうが…… 聞いてたろ?」


 バームは首の動きで、長方形の遠写鏡を示す。


『わたしがつかまえなきゃイミがないの!』


 荒々しく文字を打ち、叫ぶように手のひらを突き出したラズリーは、再び騎竜隊舎の出入口へと駆け出していってしまう。


「おい! 待てって! おい!」


 バームの大声に周囲の人々が反応する。何人かはバームから逃げるように走っていくラズリーを目で追った。しかし誰もが自分とは無関係の出来事だと判断し、それぞれが自分の手元の関心事へと戻っていく。


「まったく子供ってのは…… 訳が分からん!」


 男はラズリーの小さくなっていく背中を目で追った。溜息まじりに呟いたバームもまた、人々の間を抜けるように走り出す。迷惑そうな目を向けられてもバームは気にしない。


 待合室から直線の廊下を抜け、ガラスの魔導ドアが開ききるのも待たずにバームは騎竜隊舎前の歩道へと飛び出した。


 大通りはゆるやかな曲線を描き、それに沿って街の主要な建物が背比べするように建ち並ぶ。


 バームは右に左に顔を向け、まばらに歩く人々の間に少女の姿を探した。


「くそぅ…… やっぱ…… 運動は、しねぇとなぁ……」


 膨れ気味の腹を押さえながら、男は息を整える。


「ああ、見つけた」


 バームの目は騎竜隊舎へ来たときとは、逆方向へと走っていくラズリーを捉えた。


「どこへ行くつもりなんだか……」


 男の声には溜息が混ざる。ラズリーを再び追いかけようとして、一歩前に踏み出した足が止まる。


 バームは騎竜隊舎を振り返った。


 古びた城のような建物内には制服姿の騎竜隊員がいる。スピラ村の件に追われているのか、歩みは速い。バームは騎竜隊員を見て、それから大通りを走っていく少女を見て、どちらに踏み出すか迷った。


 男は首を振り、大通りのほうへと歩き始めた。その歩みは遅く、走っていく少女との距離はどんどん開いていく。


 それからバームは、騎竜隊舎へ来たときの道を歩き始めた。


 それはラズリーが走って行くのとは反対方向なので、少女と男の背中は遠ざかっていく。ラズリーが大通りの角を曲がり、ついには姿も見えなくなった。


 それでもバームは振り返らない。暗い顔をして淡々と、街を歩く人の流れに溶け込

んでいった。

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