森の朝食_2

『なにか作ってるの?』


「おっと、あぶねぇ…… 忘れるところだった」


 バームはずんぐりむっくりした体を急がせて、車内に取り付けられたコンロに戻った。


 彼の手は置かれていたフライパンを掴んだ。フライパンからはジュージューと美味しそうな音が聞こえていた。


「パンケーキ焼いてんだ。お前も食うだろ?」


 バームは手首のスナップをきかせて、フライパンを振った。


 中からこんがりした円盤が飛んで、ひっくり返ってフライパンの中に戻った。


 その軌道に少女は思わず見とれた。ぐぅぅぅ…… と、お腹が空腹を訴える。ラズリーは聞かれないようにと腹を押さえたが、すでに手遅れだった。


「ハハッ、待ってろよ。すぐだからな」


 少女の腹の音が聞こえたのか、バームは灰色の髭を揺らす。ラズリーは、なおも空腹を訴える、ぐぅぅぅという音をおさえるのに、顔を赤くしながら奮闘していた。


「そら、お前の分ができたぞ。これを持って外に出てくれ。今日は天気がいいからな」


 ソファーに座るラズリーに皿が差し出される。皿の上には美味しそうなパンケーキが2枚乗っていた。


『そと?』


 朝食を受け取る前に、ラズリーは疑問をノートに書く。


「まあ、行けば分かるさ」


 バームは含みのある言い方で、少しだけ笑ったように見えた。ラズリーに皿を突き出して、早く行け、とあごで促す。


 いまいちピンと来ないラズリーであったが、ひとまず皿を受け取って、開け放たれていた車の後ろから外に出た。


「うっ……」


 声が出たことに、少女は気付かない。


 ラズリーは明るい朝日に目を細めた。思わずパンケーキの皿を落としそうになる。


(外に出たけど、どうすればいいんだろ……)


 日の光に目が慣れたラズリーは、辺りを見回してみた。


(あっ、あれか!)


 昨日は魔法の小屋が置かれていたあたりに、今日はテーブルが置いてあった。


 草地の上には折りたたみ式のテーブルが置かれ、その上には水の入ったビンや、ジャムなどが置かれていた。先にこしらえていたのか、タマゴ料理と思われる黄色いものが盛られた皿や、茹でたソーセージが乗った皿もある。


 バームが言っていたように今日は天気が良く、涼しい風に森がさわさわと揺れていた。


(なんだか、ピクニックみたい……)


 ラズリーは、そわそわするような感覚に捉われながらテーブルに近づき、イスに腰かけた。


(先に食べててもいいのかな?)


 少女はテーブルに置かれた料理をしげしげと眺めた。


 ボウルに入った野菜のサラダや、ピンク色のソーセージ。盛られたスクランブルエッグに、皿の上のパンケーキ。


 見ていると少女のお腹は、ぐぅぅぅと鳴った。早く食べさせろと主を急かしている。


 しかし、ラズリーは膝の上で拳を作って我慢した。


 先に食べてはバームに申し訳ないと思ったし、行儀が悪いのではないかと思ったからだ。美味しそうな匂いを放つ料理を凝視しながら、ラズリーは男がやって来るのを待つ。

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