あれこれいろいろ言いますが
上田あっすう
第1話関節泥棒
うちのお母さんは一時期、寝たきりの状態になっていました。私がいつも目を覚ます頃にはお母さんがいつも台所にいて、私はまだ寝ぼけているのに、既にせかせかと家族のお弁当を作り、回していた洗濯物を干したりとフル稼働です。ある程度の朝食を食べ進め、意識が段々とハッキリした頃に今度は自分が仕事場へ向かう準備をしていました。私なんか、めざましテレビの占いで11位なんて言われて憂鬱に浸かる余裕がまだあります。
てか、テレビの占いは色々と言いたいことがあるんだけど取り合えず、最も救えないのは11位だと思うんですよね。12位は「ごめんなさーい〇〇座のあなた!」謝ってもらえるし、具体的に不幸について語られる。だから家族や周りから結構、注目される。「今日は最下位だったもんな!気にすんな!」って励まされる。挙句の果てにはラッキーアイテムにプラスしておまじないも貰える。もうね…おまえ…実質7位だろ?って思うんです。12星座ランキングでは7位から悪い話が始まるんですが、アドバイスを二つも貰えるのは最早ラッキーだろと思うんです。だけど、番組的に7位でべらべら語るのは違和感があるから、仕方なく12位に落とされてると思うんです。だから本当に救えないのは具体的説明されないで、訳の分からんラッキーアイテムを言われて次に行かれる11位が星座占いでは一番の不幸です。
まぁとにかく、母は強しという言葉があるだけお母さんはパワフルです。パワフルなんですが、起きて来なかったんです。あれ?っと思いました。明日も仕事だ…ってのは昨日、聞いていたし具合悪い感じも無かった。おかしいなぁ~と思いながら、寝室に向かいました。すると母はまるで刑事ドラマで誘拐されて縛られてる人みたいに体をくねくねと動かしていました。「どうしたの、お母さん!」とびっくりして駆け寄る私。娘しております。ええ、いい娘しております。「ふぁーふぁっふぁん、ふぁんふぇふふぁ、うふふぁふぇふぁ!(あーあっちゃん、関節が、盗まれた!」
信じられない話かもしれませんが、全国には色んな泥棒がいます。金品や生活用品は泥棒業界では王道です。財宝は絶滅危惧種でフィクションの世界がメインになっております。そして、空き缶を集めるエコな方々は世捨て人となっております。これらが目立つだけで、他にも色んな泥棒が居るのです。関節泥棒もマイナー泥棒の仲間です。
田舎ですから、誰も入ってくないだろうなんて甘く見てました。警察を呼んだ後に盗難チェックの為に整形外科でレントゲンを撮りどこが盗まれていないかチェックすることになりました。260程ある人体の関節は、右の顎関節を残して全て盗まれていました。お母さんのレントゲンでは肘や膝にある関節が無く、一本の真っすぐな骨になっていました。お母さんも私たちも非常にやり切れない気持ちになりました。お母さんはこれから棒みたいな人間になり寝たきりの生活になってしまうのか…。あの時は急に突きつけられる現実に涙が止まりませんでした。関節を盗まれてから1っカ月が経った頃、警察から連絡が入りました。「関節泥棒が捕まりました。」
どうやら犯人は最近、地元に出来ていたペットショップの人間でした。捕まった時の彼の写真を見たら、首がめっちゃ長くなっていました。彼は動物の中でもキリンが大好きで、首に関節を加えていたそうです。更に彼が通っているボクシングジムのトレーナーさんから、「まるで蛇みたいにしなるパンチを出す」という証言があった事と、常連客にタコを「こいつを骨のある奴にしたい」と自慢していたそうです。
いや…タコはコンビニのチキンとかで代用しろや…。何がともあれ、お母さんは無事に関節を取り戻して今日もパワフルに動いてくれます。ありがとう、お母さん。
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