31 迷子のポンコツメイド



 あぅぅ。

 ずっとご主人様にお楽しみされていると身が持たないという事で、隙を見て逃げ出してきました。

 けれど、どこをどう走って来たのかさっぱり覚えていないので、すぐに道に迷ってしまいます。


 うぅっ、隠れやすそうだからって、近くの森の中に入ったのが駄目でした。


 そうこうしている内に、辺りは真っ暗。

 日が沈んできて数メートル先も見えません。

 凄く心細いです。


 狼がわおーん、とどこかで泣いてます。

 あれは、獣人ではなく、普通の狼さんでしょうか。


「はぁ、どうしよう。リア姉さん、カイネ君、ご主人様~っ!」


 周りがよく見えなくなってくると、本格的に獣の唸り声が聞こえてきました。


 狼か野犬かの群れが住んでいるのかもしれません。


(人間の肉なんて美味しくないよって、必死に祈ってるけど、効き目あるのかな)


 暗い事考えてたら、どんどんそっちの方向にいってしまいます。


「ううっ、ご主人様。ごめんなさい、助けてくださいっ、もうお仕置き嫌なんて言いませんから~っ!」


 諦めずに一時間くらい歩きましたけど、さすがに疲れました。

 このまま皆に会えないのかな。


 えぐえぐと泣いてると、唐突に声がしました。


「お姉ちゃんも、もしかして迷子なの?」


 なんとビックリ、私の様に迷子になってしまった女の子発見です。


 これは大変。


 綺麗なドレスをきてるから、どこかの家のご令嬢さんかな。


 年は6歳くらい。


 6歳なのに、でも私みたいに狼狽えてません。


 なのに、私ときたら恥ずかしいです。


 年長者として、私がしっかりしなくちゃ。


「そうです。迷子です。でもきっと大丈夫。必ずお家に帰れるから、一緒にいこうね」


 私は泣きたい気持ちをこらえて、ぐっと我慢。


 女の子の手をひいて、歩き出します。


(でも、どうして迷子になっていたのかな)


「どうして森の中にいたの?」


 疑問に思っていると、ポケットから昆虫さんがこんにちわ。


 クワガタかな?

 異世界にもいたんですね。

 五本くらいつのがありますけど、本当にくわがた?


 ちょっと不安になってきました。


「クロピカファイブオオムシだよ」


 くろぴ?


 とても長くてややこしそうな名前です。


 記憶の限りでは、私のいた世界にはいなかったはずですから、この世界特有の昆虫さんですね。


 なるほど、これをさがしているうちに、迷子になってしまったと。


「弟がほしがってたから、さがしにきたの。でも帰り道がわからなくなっちゃった」

「そうだったんだね。でも、お姉ちゃんも一緒に探してあげるから、大丈夫だよ」


 私は女の子を励ましながら歩き続けます。

 でも、やっぱり小さな子だから疲れちゃったみたい。


 途中でしゃがみこんで、ねむちゃったから、私が頑張っておんぶして運ぶことにしました。


 でも、あううう。人間って重いんですね。


 足がぷるぷるします。


「ご、ご主人様ぁ。なんでもいう事ききます。今ならいつもの3倍はサービスします。とにかく助けて下さい」


 なんて言っても、来るわけないですよね。

 そう思っていたのにーー。


「チヨ、言質とったからな、言い逃れはできんぞ」

「ふぇっ!?」


 声がした方を向くとなんとそこにはご主人様様がいました。


 幻かなって、思って目をゴシゴシこすっても消えたりしません。


「この俺をじきじきに歩き回らせて探させるとは、とんだポンコツメイドだ。良いご身分だな。帰ったらお仕置きたっぷりだぞ。覚悟しておけよ」


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