02.
「やっぱ信じられないよなぁ……」
“妖精”を拾った日の午後、辺境警備隊に所属する少年ジェイムズは隊長の指令を受けて村の北側の森の見回りに出かけていた。
本来この時間の巡回はケインの当番なのだが、例の妖精娘への対応その他で慌ただしかったので、ジェイムズが自ら申し出て担当を代わったのだ。
「百歩譲って、あの子が妖精だってのは、まぁいいよ。村の入り口で放置されてたことや、僕が抱きかかえてるのに誰も気にも留めなかったことから、納得できないでもないし」
手慣れた動作で森の木々のあいだを抜けながら、僅かに踏み固められた獣道を少年は周囲に気を配りつつゆっくりと歩く。
「でも、この僕にそんな特殊な能力があるって言われてもねぇ」
──ジェイムズ、お前さん、どうやら自分では気づいてなかったようだが、
ケイン隊長に言われた言葉が脳裏に甦る。
「妖眼」、あるいは「妖精眼」と呼ばれるそれは、数万人にひとりの割合で人が持つ異能のひとつだ。
その名の通り、普通の人間には不可視なはずの妖精や亡霊の類いが見えることに始まり、十全に使いこなせる人間ともなると魔力の痕跡や残留思念なども「視る」ことができ、戦闘その他でも何かと重宝する能力──らしい。
実は隊長自身も妖眼持ちで、かつて傭兵だった頃はいろいろとその力に助けられたのだと言う。
「とは言え、基本的には“見える”だけだからな。それ単体で出来ることは限られてる。活かすも殺すも自分次第ってワケだ」
「はぁ、なるほど……」
隊長の説明を何とか理解しようと努めるジェイムズだったが、その場にいたもうひとりの人物──隊長の妻であるゲルダがさらに説明を付け加える。
「グラムサイト自体の力はそんなところだけどね。妖眼持ちの人間は、えてして精霊同調率が高いのよ」
「精霊同調率、ですか?」
「簡単に言うと「魔力を持つ存在に干渉されやすく、自分も干渉しやすい」ってところかしら」
全然簡単ではなかった。
「戦いに関して言えば、要するに普通の人間じゃない、魔物や幽霊の類いにも、お前さんの攻撃が素直に効くってこった」
言われてみれば、確かに思い当たるフシはあった。
ケイン隊長が赴任して以来何度か実施された討伐任務で遭遇した魔物に、武器扱いの技量が同程度のはずの同僚と比べて、彼の方が大きなダメージを与えていた気がする。
「ただし、同時にお前さんの気配も、そういう奴らに察知されやすいがな」
「それって、メリットよりデメリットの方が大きい気がするんですけど!?」
「まぁ、そう言うな。
卵が先か鶏が先かの不毛な議論な気がした。
自分がそういう異能を持っているのは事実らしいから、これは仕方ない。それを踏まえたうえで、この力とどうつきあっていくかを考えるべきなのだろう。
(隊長が妖眼持ちの先輩として色々教えてくれるって言うのは幸いだったけど……)
もし、隊長やゲルダのようなそれに対する理解と知識がある人間がいなければ、自分は潰れてしまっていたかもしれない。それを考えれば、彼らがいる時に判明したのは、むしろ幸運だったと言えるだろう。
何事もなく巡回ルートを一周し、村の入り口に帰って来る頃には、ジェイムズもひとまず気持ちの整理がつき、落ち着きを取り戻していた。
(だいじょーぶ、たとえそんな力があったって、僕の毎日が変わるわけじゃないさ!)
彼は、そう思っていたのだが……。
「え……」
「あ……」
任務終了の報告しようと詰め所の扉を開けたところで、なぜかワンピースを脱いで半裸になっている行き倒れ娘と鉢合わせするハメになり、仮初の平常心なぞ吹き飛ぶハメになるのだった。
──陳腐な形容ながら、本当に雪のように白い肌をした背中。
──あまり大きくはないものの、確かに女性らしい曲線を描いている胸元。
──そして、視線をそのまま下げると……。
「ご、ごめんなさい、見てません!」
「バタンッ!」と凄い勢いで詰所のドアを閉めるジェイムズ。
「…………お、男の人に見られちゃいましたぁ! ふみゅ~~~ん!!」
一拍遅れて、中から少女の泣き声が聞こえて来たのは、まぁ御愛嬌といったところか。
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