第2話 探検

一樹と夜の職場探検。


絢たちは、ナオヤ君はと別れた後、

一樹と二人で職場内を巡回することになった。


まず、一番近い棟に行く。


「さあ行こう。」



「はい!」



絢は、内心ちょっと楽しみだった。




普段、夜遅くには来ない場所。

しかも、夜はなぜだか少し怖い空気を醸し出しているせいで

皆近寄ろうとしない。



とりあえず、今いるところから行くには、まず外を歩かないといけない。



一樹が外へ通じる扉を開ける。


…キィ



「うっ…さみーな」


「…。ほんと、さむい...」



二人は目的の棟まで小走りで向かった。



…キィ


一樹が扉を開けてくれた。



だが、

絢が入ろうとしたとき、一樹がその扉を閉めようとしている。






そう、いたずらだ。







「えー!入れてくださいよ~!」


一樹は、楽し気にちょっとだけ扉をあけこちらを覗いている。




「はいりたいよぅー!」



一樹がフフッと笑い、扉を開けてくれた。



絢は、一樹と棟の中に入った。



入ると、非常口のマークが光っていて、蛍光灯の明かりはついていない。



ちょっと怖い。



「この棟ってお化けがでるんだよ。

 絢知ってた?」



一樹がエレベーターのボタンを押し、絢に話かけた。



「私もこの棟で何か変な感じがしたことあります。」


「そうなんだよなぁ、やっぱ出るかもなw」



実際に絢は以前、夜にこの棟に一人で入ったとき、

何か薄気味悪い感覚に遭ったことを、非常口のマークを見つめながら思い出していた。



まもなくしてエレベーターが到着した。


一樹から先に乗り込む。



絢と一樹は、2階に向かった。



エレベーターの扉がゆっくり締まり、二人は密室空間にいる。



密室空間。

エレベーター。



このシチュエーションだけでちょっと興奮してしまう。



誰も見ていないし、抱きつきたい。。。



絢は一樹を見つめながら考えていた。

後ろを向いている一樹もまた素敵だ。



2階に到着し、ゆっくりと扉が開く。



絢が先に降りた。



降りた先には、長い廊下がある。

もちろん明かりはついていない。

真っ暗だ。




絢と一樹は、まず目的の部屋に向かった。



絢は一樹の後ろにまわり、歩き出した。



「嫌だ…  本当に怖い…」



暗い廊下の先に、緑に光った非常口のマークが見える。




「今すぐ手を繋ぎたい…」




二人はゆっくり歩いていると、目的の場所の近くに到着した。


まず、一樹が先に部屋に入る。



…キィ。



一樹が電気を付けずに部屋の奥へと進んでいった。



「え…電気付けないの…?」



絢は、あわてて、一樹の後を追う。



もう怖くて仕方がない。



だが、一樹は、絢との距離をどんどん離していく。



「待って…。本気で怖い…」



一樹は目的地前の扉まで到着してしまい、

扉を開けて部屋に入ってしまった。



「待って…」



絢は必死になって一樹の後を追いかける。




怖くて仕方がない。









絢は、やっと目的地前の扉に着いた。



だがもう一樹の姿は見えない。




絢は、暗闇の部屋に恐る恐る入って、一樹を探した。





…。




…。









「ゎあっ!」




一樹がしゃがんでいる。




「びっくりしたぁ」







一樹は楽しそうだ。



怖がりな絢を驚かせようとしている。




「もーう!

 やめてくださいよー!」



「楽しいなー笑」



一樹は、完全に楽しんでいる。



すくっと立ち上がり、目的のPCの所まで来た。

シャットダウンをして終了だ。



だが、まだシャットダウンができない。




一樹は、部屋の電気をつけ、シャットダウンができるようになるまで

待つことになった。




絢はPCの画面を見ていた。



…フウッ




絢の左耳にふっと風が…



「きゃああっ」




絢はドキッとした。





なに?

と思って振り向いたら一樹が絢の耳に息を吹きかけて遊んでいる。



一樹はクスっと笑い楽しんでいる。



「なーに?

 感じちゃった?」





一樹が絢に話す。





絢は、耳が苦手というか、感じやすい。




しかも左耳が特に弱いことは自分でもわかっている。




「なに?感じちゃった?」




一樹が追って攻め立てる。





そりゃ、感じるに決まってる。


感じないやつがどこにいるんだ?


あんまりやられると感じちゃって

動けなくなるかもしれない…



絢は心の中で思いながら、一樹の問いに返事をした。




「まぁちょっとは…」




実際に声に出して言うには十分すぎるくらい。

恥ずかしい。




「もうやだ。」

と思いながら

全然嫌じゃない。




そんなことをしているうちに、PCのシャットダウンができるようになった。




絢はテキパキ作業をし、シャットダウンをした。









さあ、戻ろうか。


と言ったら、一樹がまた部屋の電気を消し、先に部屋から出ていった。



これは、ちょっと怖い。



絢は、小走り気味に一樹を追いかけた。




部屋を出て、一樹を探した。



だが一樹が見つからない。




「えーどこー?」


「見逃していて、後ろから肩を叩かれたらどうしよう」

と思いながらきょろきょろとあたりを見回しながら一樹を探す。







パタパタっと扉の前に来た時、一樹が立っていた。


絢は、あたりを見回していたので、一樹に気づくのが遅れ、

びっくりしてしまい、



「わあああっ」




と声を出してしまった。



一樹は楽しそうに笑っている。



本当に怖かった…



絢は一樹の肩を、こぶしを作った両手でポンポン叩きながら一樹をいじめた。




「こわかったぁ」



絢と一樹は廊下に出た。



絢は今のが怖くて、一樹の腕を掴んだ。





無意識に掴んだ。

と言いたいところだが、

今ならいける。と完全に考えて掴んだ。





しばらくこの体勢で歩いたが、

一樹が絢の方を見つめてきた。



「ああ、離せってことか。」


絢は察したので、

一樹が見つめてから1.5秒くらいで、


わざとらしく、



「あっ!

 ごめんなさいっ!」



と言いながら一樹から離れた。




「まあ、会社だし、しょうがないよね。」



絢はそう思い、一樹から離れた。








今思えば、

「離れてくれ」の見つめだったのか

「なーにどうした?」 とSっ気気取りな見つめだったのか

今ではもう闇の中だ。








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