70.オリジナルインゴット作り

 ワイバーン狩りに行った翌日の午後、今日はサイ姉さんの襲来がなかったのでのんびりと時間を過ごせる。

 若様に言って『ヘファイストス』から回ってくる依頼の量も調節してもらっているので、午後の時間は自分の研究に充てて大丈夫だろう。


「……さて、秘宝はまた買いあさってきたし、オリジナルアイテム作製、再開するとしますかね」


 俺が作ろうとしているアイテムは、一言で言うとインゴットだ。

 一般的な鍛冶素材の基本となる、金属の塊である。

 それを作製しようとしているわけなのだ。


「……この間は評価Aまでいった。つまり、理論と製法は間違っていないはず。あとは手際と時間の勝負か」


 作ろうとしているインゴットは色竜のレア素材である『竜の秘宝』から作るインゴットだ。

『竜の秘宝』は正式に『○○竜の秘宝』という名前がついており、色竜ごと、つまり八種類存在している。

 いま現在の使い道だと、普通の装備作成時に添加剤として使うことで、装備に属性攻撃力を与えることができる、という使い道しかない。

 レア素材であるにもかかわらず、その程度の使い道――互換品は存在している――しかないため、ハズレ枠扱いとなっており、市場価格も相当に安い。

 同じようなアイテムに『竜命脈の結晶』というのもあるが……あっちをいじるのはまた今度の機会だ。


「まずは赤竜の秘宝からで大丈夫だよな? テンモク、始めてくれ」

「ゴォー!」


 竜の秘宝をとりやすい位置に並べ、つなぎの役割を担う竜水晶と一緒に炉で鍛えていく。

 最初は火属性の赤竜なので、部屋の温度は非常に高くなる。

 普段なら、俺の装備も耐熱素材でできた服に替えるのだが、今回は様々な状況に耐えられるような服を装備している。


「……次は銀竜の秘宝! テンモク、部屋の温度を氷点下まで下げて!」

「ゴゴォ!」


 火の赤竜の次は氷の銀竜。

 最初は水の青竜を試したのだが、いきなり割れてしまった。

 総当たり的に試していった結果、二個目は銀竜が最良という結果に落ち着いた。


「次、土の黄竜! 気温は平温に!」


 氷の次は土か水がよかった。

 今回は土を選択することにする。


 そのあとも、残りの秘宝を次々と投入し、インゴットを形成していく。

 そして完成したものが……。


「オリジナルアイテム『竜秘宝のインゴット』評価Sか。S+にならなかったのは、最後まごついたからかな」


 最後の最後で手間取ってしまい、少し作業に遅れが生じた。

 これが評価の落ちた原因だろう。


「ともかく、これで完成……か? 一息ついたら、もう一度同じ手順を試してみて、評価S+ができることを試したら、個人レシピ帳に登録だな」


 個人レシピ帳は、いわゆる備忘録的なシステムで、アイテムの配合手順や割合、配合量などをメモしておける機能だ。

 今回の俺のレシピで言えば、使ったアイテムは、各種竜秘宝がひとつずつ、竜水晶が八つ。

 手順は……秘宝を鍛えていく順番が記入されていく仕組みとなっている。


「……さて、いつまでも、オリジナルアイテム『竜秘宝のインゴット』じゃ名前がかっこつかないよな。他人に命名される前に命名してしまおう」


 オリジナルアイテムは、最初に作ったプレイヤーが命名権を持っている。

 今回のインゴットに付いては、俺が最初に完成させたということだ。

 なお、命名権を入手するには『完成』させねばならず、『完成』扱いになるには評価B以上が必要になる。


「……うん、『竜魂のインゴット』にしよう」


 アイテム名を登録することで、仮称竜秘宝のインゴットが竜魂のインゴットに上書きされた。

 これで、正式に俺の登録したオリジナルアイテムというわけになる。


「オリジナルアイテムコンテストに出すにはこれだけじゃ弱いよな。ただのインゴットじゃ、この鉱石の特性をまったく引き出せていないし」


 そもそも、俺がこのアイテムを作ろうと思ったきっかけは、赤竜の秘宝を使ってインゴットを作ろうとしたことが原因だ。

 そのとき、単純に失敗してアイテムが消えていれば問題なかったのだが、なぜかゴミにならず、赤竜のインゴットという最低品質のアイテムができたことが始まりである。

 そのインゴットを使って作った装備は、誰にも見せずに保管してあるが、属性攻撃力と滅竜属性を持った装備になった。

 素材の品質が悪すぎたので、装備品としては三流未満の性能だったが。


 そのあともこっそりと研究を重ね、竜水晶を一緒に使えば複数の秘宝をまとめて使えることわかったのが六月頃。

 そして、夏休みが始まったいま、ようやくその研究が完成形となったのだ。


「……よし、品質S+の『竜魂のインゴット』完成だ! さて、あとはこれを量産して装備の作成だな」


 さっきできた品質Sのインゴットは保管しておいて、S+のものだけを装備にしてしまおう。

 オリジナルアイテムコンテストに出す以上、中途半端なものは作りたくない。


「まずは自分の装備からかな。……面倒だし、刀だけでいいか」


 俺の装備で金属装備と言えば、刀がメインだ。

 手甲や脚甲も金属を使っているが、場合によって金属以外も使うので今回は却下だな。


 さて、竜魂のインゴットを使って刀を作るわけだが、これがなかなか大変である。

 手順は普通の刀と同じで大丈夫なのだが、インゴットがとにかく硬かった。

 半端な生産道具だと、道具のほうが破損して生産失敗になりそうな、そんな硬さだったよ。

 フラスコに頼んだ生産道具は最高品質の素材でできてるから、大丈夫だったけどさ。


「……これが竜魂のインゴットで作った刀か。うん、『竜魂之宝刀』と名付けよう」


 オリジナルアイテムが素材だったために、作ったアイテムもオリジナルアイテム扱いだった。

 思わず、宝刀と名付けてしまったが、そう呼べるだけの美しさがこの刀にはあった。

 武器としても、最高クラスの物理攻撃力に、『滅竜属性+』と十分すぎる性能だ。

 フレーバーテキスト通りなら、これで完成ではないのだけどね。


「インゴットを作るのに一時間、装備を作るのにさらに一時間か。ハズレレアとはいえ、数をそろえればそこそこの値段になるし、それ以上に時間を食うし、決して安売りはできないアイテムだなぁ!」


 作ってて楽しいからいいんだけどね!


 さて、いい時間になったし、市場にもう一度行って安めの秘宝を買い占めたらログアウトしよう。

 晩ご飯を食べて、寝る支度をしたら再ログインして若様からの依頼を処理だ。


 さあ、楽しくなってきたぞ!

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