16.赤妖精ファイアピクシー

「さあ、もうちょっとで赤妖精だよ! 頑張って、エイト君!」

「もう帰りたいところなんだけどな……」

「そう言わずに! あとちょっとなんだから!」


 レイに誘われるままやってきた赤妖精。

 そこはフィールドボスではなく、ダンジョンだった。

 ダンジョン名は『赤炎花畑フランベルジ』だそうな。

 ダンジョンとしては非常に小規模らしいのだが……俺のレベルが低いせいでいろいろと足を引っぱっている。

 敵が小さいから攻撃を当てるのも一苦労だし、当ててもダメージがそこまで伸びない。

 【居合い】スキルも併用すればそこそこのダメージになるけど、一度使うとクールタイムがそこそこある【居合い】スキルは連発できない。

 ……そのせいで精神的に疲れているというわけだ。


「気にする必要はないぞ。誰しも最初は初心者だ。それに、君が戦力にならないのは承知の上で連れてきているからな」

「そうだよー。レベル上げのためにダンジョンにきているんだし気にしないでね」

「そういうこった。モンスターの剥ぎ取りを任せてるんだから、それでよしとしとけよ。俺たちはそれだけでも助かってるわけだし」


 先輩方はそう言ってくれるけど、戦闘でお荷物なのは変わらない。

 とりあえずこの戦闘も終わったし、モンスターに解体ナイフを突き刺すお仕事をしますか。


「ねえねえ、そのナイフってなんのナイフなの?」


 レイが剥ぎ取り作業をやっている俺の隣にやってきて、ナイフのことを聞いてくる。


「これか? オブシディアンナイフだ。黒曜石から作ったナイフだな」

「黒曜石……レベル40くらいの素材だっけ?」

「その通りだ。意外と詳しいな」

「もうすぐ40だから勉強したんだよ! でも【採掘】レベルが低いから掘れるかどうか心配なんだよね」


 うん、黒曜石はレベル40でいろいろ使うから、その認識は正しい。

 ただ、問題があるとすれば……。


「……黒曜石でなにを作るつもりなんだ?」

「え? レベル40用の装備だけど」

「いまの赤妖精装備があればレベル40装備は必要ないぞ?」

「そうなの!?」


 レベル40装備の性能がわかってなかったようだな。

 少し補足しておくか。


「皆に渡している赤妖精装備は最高品質にしてあるから、レベル45相当の性能はあるはず。特殊効果も考えたら、レベル50装備より少し強いかも、くらいの性能だな」

「そうだったんだ。……そんな装備をあんなに安く手に入れて大丈夫だったのかな?」

「あまり大丈夫じゃないから他言無用なんだよ。ユニーク装備の強化自体は知れ渡ってるけど、強化限界はB+って言われてるんだ。S+の装備なんて言ったら大騒ぎになるぞ」

「そうなんだね。じゃあ、私も黙っておこうっと」

「それがいい。……よし、剥ぎ取り作業終わりっと」


 すべてのモンスターを解体し終えて順路を進んでいく。

 脇道にそれれば宝箱があったりするらしいが……今回は無視だ。

 なにせ、宝箱から手に入るアイテムは俺たちにとってあまり価値のない物だからな。

 回復薬は自力で作れるし、装備が出ても売るしかない。

 そっちに時間をかけるならサクッとクリアしようというわけだ。

 そういうわけで、ボスまで寄り道せずに向かっている。

 そのあとも何回かのザコ戦を経てボスモンスターである赤妖精の前までたどり着いた。


「さて、ここがボスモンスター『赤妖精ファイアピクシー』の部屋だ」

「ファイアピクシーですか。名前は初めて聞きましたね」

「そうなのかい?」

「うちにくるときは、赤妖精素材か赤妖精の結晶ですからね」

「それもそうだ。普通のモンスターでも死体では名前が変わることがあったね」

「ストーンリザードが岩蜥蜴とかですね。それで、このボスの注意点とかはありますか?」


 俺としては攻略情報とかを調べていないので聞きたいところだ。

 それに対してフォレスト先輩はこう答えた。


「最初から攻略情報を知ってるなんて面白くないだろう? 初見は悩んでこそだよ」

「……そういうのは戦闘職だけのときにやってください」

「そうかい? ……そうだな。ソード、説明を頼むよ」


 フォレスト先輩はソード先輩に説明をぶん投げた。

 めんどくさくなったのかな?


「俺かよ!? まあ、いいか。赤妖精で気を付けるスキルは『陽炎』と『空蝉』だな。『陽炎』は分身して一定時間経つと全体範囲攻撃をしてくる技。止めるには分身を全部破壊しなくちゃいけない。分身はパーティ人数と同じだけ出てくる。『空蝉』は……なんというか、効果発動中は確率で攻撃を無効化する技だな。こっちは止める方法がないから、発動中は攻撃が当たることを祈るしかないな」


 思ったよりめんどくさそうだ。

 特に『陽炎』を止められるかが不安である。


「そんなに心配するものでもないよ。『陽炎』もひとりが破壊失敗したくらいならダメージはしれているし、私の分が終わったら手伝ってあげるしね」

「それは助かります。よろしくお願いしますね、フォレスト先輩」

「うむ。まかせたまえ。さて、それでは戦闘を始めよう」


 フォレスト先輩が先頭になって部屋の中にある花畑へと足を踏み入れる。

 すると、花びらが宙を舞い、人間より大きなサイズの妖精となった。

 コイツが、赤妖精ファイアピクシー!


「さあ、それでは戦闘開始だ! ブルー、新装備のボス戦初運転だぞ!」

「わかってるよー。さあ、かかってくるのです!」


 ブルー先輩が挑発を使ったのかな?

 ファイアピクシーはブルー先輩を狙って動き出す。

 ブルー先輩は塔盾を使って攻撃を受け止めながら、メイスで反撃している。


「さあ、私たちも攻撃に参加するぞ。……ああ、正面には回り込まないようにな。時々ファイアブレスを使ってくるから」

「了解です。では行きます」

「おー! 一緒にがんばろう!」


 残りの俺たちも戦闘に参加する。

 ファイアピクシーの側面から背後に貼り付くようにして攻撃を重ねる。

 ブレンも戦い慣れているような感じがするし、初対戦なのは俺だけかな?

 そのまま少しの間攻撃を続けていると、ファイアピクシーが花畑中央に移動して体が揺らめきだす。


「む、『陽炎』か。各分身に分かれて撃破するぞ」


 揺らめいていたファイアピクシーは、六体に分裂して頭上に火の玉を掲げた。

 これが『陽炎』のモーションか。


「あの火の玉が大きくなって、爆発したらダメージだからね。頑張ろう、エイト君!」

「了解。レイも頑張って」


 俺たちはそれぞれ分身ごとに別れて攻撃をする。

 分身のHPはそんなに多くはないみたいで、俺の攻撃でもサクサク削れていく。

 そして、かなり火の玉が大きくなってしまったが、なんとか火の玉が爆発する前に分身を倒すことができた。


「よし、これでノルマは達成と。ほかの皆は……」


 ほかの皆の様子を確認したが、フォレスト先輩以外は分身を倒し終えていた。

 それに対して、フォレスト先輩は……。


「ちょ、フォレスト先輩、なんで攻撃していないんですか!?」

「なに、赤妖精シリーズの防御力を試してみたくてね。そろそろ爆発するぞ!」

「爆発するぞ、じゃなくて!?」


 そんなことを話している間に、火の玉が大きくなって爆発した。

 俺のダメージは……最大HPの一割くらいか。

 ほかの皆もブレン以外は一割ほどのダメージで済んでいる。

 ブレンだけは三割くらいのダメージを受けているが……防具の差だろうな。


「ふむ、さすが最高品質の赤妖精防具。火属性攻撃にここまで耐性があるとは」

「防御力を試すなら事前に言っておいてくださいよ。驚くじゃないですか」

「いや、すまん。ほかのメンバーには伝えておいたのだが」

「……それなら、俺にも教えてくださいよ。……回復っと」


 俺はインベントリから小瓶を取り出して地面に叩きつける。

 すると、緑色の霧が広がり、全員のHPが回復する。


「おや、ヒーリングミストか。珍しい回復アイテムを持っているな」

「自前で作ったものですよ。まだまだ品質は低いですけど」


 実際、ブレンのHPは完全回復していない。

 減っているHPは回復魔法でも使ってやればいいだろう。


「さあ、ここからは本気で行くぞ。ダメージもわかったし、サクッと倒してしまおうか」


 フォレスト先輩の号令で全員が攻撃を再開する。

 そこからは完全に一方的な戦闘となった。

 俺というお荷物がいても、まったく苦にしない様子でファイアピクシーのHPを削っていく。

 そして、数分でファイアピクシーを倒してしまった。


「ふむ、討伐までの時間もかなり短くなったな」

「当たり前だろ、フォレスト。俺たちの武器全部に『火属性特攻』がついているんだから」

「武器に火属性が付いていることは知ってたけれど、『火属性特攻』までは知らなかったよねー」


 そう、皆に渡した赤妖精武器には火属性モンスターに与えるダメージが増える『火属性特攻』がついている。

 その理由だが……。


「赤妖精武器の品質がS-以上になったらつくらしいですよ、それ」

「……なるほど。それで情報が無かったわけか」

「ホント、エイトのおかげだな。優秀な鍛冶士がひとりいるだけで、こんなに楽になるなんてよ」

「そうだねー。私も赤妖精の攻撃でほとんどダメージを受けなかったし助かったよー」


 先輩方からの評価も上々と。

 こういうことは生産者冥利に尽きるというものだ。


「さて、剥ぎ取りを済ませて脱出するとしましょうか」

「ああ、そうだな。ところで、エイトが『陽炎』で被ダメージが少なかった理由はなんだい?」

「ブラックワイバーン防具のおかげですね。これ、全属性耐性がありますから」

「……なるほど。さすがは標準レベル45の装備というわけか」


 フォレスト先輩にも納得してもらえたようだし、さっさと剥ぎ取りしてしまおう。

 俺はルビーの解体ナイフを取り出して、解体を始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る