15.戦闘スキルを上げるには

 さて、戦闘スキルを上げることとなりフィールドに繰り出したわけだが……。

 なんというか、そうそう上手くはいかないものだな。


「……ふむ。君が戦闘スキルを上げていない理由がわかった気がするよ」

「それはどうも。動いていない相手を斬るのは得意なんですけどね」

「それは見せてもらったから理解している。……しかし、動いている相手がこうも苦手とは」


 フォレスト先輩も頭を抱えているが、俺も頭が痛い。

 いまいるフィールドは、レベル20の森林フィールド。

 ここで【隠行】のほか、【潜伏】や【奇襲】スキルも覚えようというわけだ。

 ちなみに、このふたつのスキルはすぐに覚えられた。

 それ以外にも【クリティカルダメージ増加】を覚える事ができた。

 ただし、俺が動いている相手に攻撃をなかなか当てることができないため、それ以外のスキルは伸び悩んでいる。


「見ている限りでは、先手を取って一撃必殺の戦い方が一番いいのだろうがな」

「俺もそう思いますよ。ただ、一撃で倒せなかったときが面倒ですが」

「その時は【潜伏】を使って逃げ回ればいいのだよ。……それにしても、装備は豪華じゃないか?」


 フォレスト先輩は、俺の装備が気になる模様。


「ブラックワイバーンの皮からできた陣羽織やボトムス、手甲にブーツ、ベルトですからね」

「ブラックワイバーンか。ほぼ最上位の素材だな」

「ええ、まあ。素材持ち込みで生産を引き受けていると、費用も素材で受け取ることがあるので、一通り揃えてみました」

「それだけの装備があって出歩かないのは、もったいないと思うのだがな」

「個人的な備えですから諦めてください」


 確かにブラックワイバーン装備は、最前線のプレイヤーが装備しているような装備品だ。

 本当の最前線になると、ブラックワイバーンから各種ドラゴン装備に変わっていくが、なにかと便利なブラックワイバーンを愛用しているプレイヤーも多いと聞く。

 そんなブラックワイバーン装備で身を固めている俺であるが、これが活躍したのは今日が初めてだったりする。


「ブラックワイバーン装備のおかげで、多少被弾してもHPはほとんど減らない。そのことはよしとしようか」

「そうですね。さて、次の獲物を狩ってきます」

「うむ。気をつけてな」


 視界に巨大なイモムシ、グリーンキャタピラーを見つけたので、【隠行】と【潜伏】を発動。

 そのまま相手の認識外から攻撃を加えて、一撃で仕留める。

 グリーンキャタピラーは一匹ではなく三匹ほどいたため、周りのキャタピラーには見つかってしまうが、さすがに人間大のイモムシ相手に攻撃を外すほど下手でもない。

 残ったグリーンキャタピラーも斬り捨てて、戦闘終了だ。


「うーん、エイト君って想像してたより強いよね。もっと戦闘が苦手だと思ってたんだけど」

「ああ、コイツ、小さいころから護身術と居合いを習ってたから運動神経が悪いわけじゃないんだよ。野球みたいな一部の運動が極めて苦手なだけで」

「そういえば、特技が護身術と居合いって言ってたもんね。なんだかもったいないなー」

「ま、あいつは戦闘より物作りのほうが性に合ってるらしいから仕方がないさ」

「むー。本当にもったいない」


 向こうで外野レイとブレンがなにか話しているが……まあ、首をつっこむ必要もないだろう。

 こっちはこっちでモンスターを倒していくだけだし。

 そんな感じで、先輩方のバックアップも受けながらモンスターを倒し続け、刀や居合いのスキルレベルも20まで到達した。

 ……それなりに時間はかかったけど、たまにはこういう日もいいよね。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 十分にスキルをあげることができたため、一度街に戻ってスキルを覚えることになった。

 スキルは自力でトレーニングを積んで覚えるのが一般的だが、魔法スキルを始めとする一部スキルは、街で専用のアイテムを買って覚えなくてはならない。

 フォレスト先輩のすすめで覚えることになったスキルは【忍術】【妨害魔法】【回復魔法】の三つだ。


 最初の【忍術】は少し特殊なスキルで、魔法系なのに器用さを基準にしたダメージ判定が発生するスキル……らしい。

 ダメージ量よりも相手をひるませる効果が高いらしく、ソロでも逃げるときにあると便利、ということで覚えることになった。


 ふたつ目は【妨害魔法】、さまざまな状態異常を相手に与えることができるスキルだ。

 麻痺や睡眠のような状態異常を与えることができれば、確実に逃げられるということで採用した。

 それ以外にも、相手の動きを阻害するような魔法が多々あるので、いろいろ便利である。


 最後の【回復魔法】は、ソロだと使う機会がないが、覚えておくに越したことはないということで覚えることとなった。

 ただ、俺の場合はポーション類を多めに持ち歩いているので、本当に出番は少ないだろう。

 このスキルについては、別のスキルを覚えたら控えに回す、ということになると思われる。


「ふむ、とりあえずのスキル構成はこんなものでいいだろう」

「それはどうも。……あんまり使う機会はないと思うんだけどな」

「そうかね? 【忍術】などは煙幕や目潰しなど逃走にも役立つスキルがあるぞ?」

「影蜥蜴のローブがあるんで、滅多に戦闘にすらならないもので」


 戦闘になったら全力で逃げればいいだけ。

 もっとも、その時に【忍術】があればより簡単に逃げられるだろうけど。


「ねえねえ。スキル構成も決まったんだし、もう少し強いモンスターがいるところに行ってみようよ」

「それも悪くないな。エイト、時間はあるかな?」


 レイの提案にフォレスト先輩が乗ってきた。

 時間か……明日は休みだし、多少寝るのが遅くなっても大丈夫だから。


「あと少しくらいなら問題ないですよ。それで、どこに行くんです?」

「そうさな。エイトの戦闘用スキルが20くらいだから、新しいスキルの底上げも兼ねて、レベル25くらいが妥当か」

「はいはーい、それなら一番弱い赤妖精に行こう。確かレベル25から生息しているはずだし!」

「……ふむ、悪くはないか。よし、それにしよう」


 赤妖精か。

 解体したことはあるけどモンスター状態の赤妖精を見るのは初めてだな。


「エイトも構わないね?」

「役に立てるかどうかわかりませんけど、それでいいなら」

「なに、いざとなったら私たちでなんとかするさ。レベルシンクでレベルは引き下げられるけどね」


 いまの話に出てきた『レベルシンク』とは、戦闘するボスに応じたレベルまでスキルレベルが引き下げられるシステムのことだ。

 レベル25のボスが相手だと、だいたい28くらいまで下げられるはず。

 それを含めて余裕を崩さないフォレスト先輩は、相当自信があるのだろう。


「さあ、早く行こうよ! もう赤妖精の素材はあまり必要ないけど、エイト君もきっと楽しめるよ!」

「わかったから、背中を押すな!」


 こうして文字通り背中を押されながら、俺は赤妖精との初戦に臨むこととなったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る