4.赤妖精のレイピア

本日は2話投稿します

7時・19時ごろ公開予定です


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 さて、夕飯とお風呂休憩を挟むこととなったが、引き続き『赤妖精のレイピア』を作っていかないと。

 結晶をインゴットに作り替えたところで作業は止まってるから、そこから再開だな。

 さて、赤妖精シリーズを作るためには、室内温度をかなり上げる必要がある。

 俺は耐熱装備に切り替えて、サポート精霊のテンモクを呼び出す。


「テンモク、部屋の温度を上げてほしい。頼めるか?」

「ゴォー!」


 テンモクは火の精霊イフリート。

 温度を上げる作業を行うには、もってこいのサポート役だ。

 テンモクのおかげで作業場の温度は80℃近くまで上昇している。

 赤妖精シリーズを作るためには、このくらいの温度が必要なんだよね。

 この仕様を知ったとき、すぐに知り合いの裁縫士に耐熱装備一式を発注したくらいには厳しい環境だ。

 その耐熱装備のおかげで、この室温でも快適に過ごせるけど。


「テンモク、ありがとうな。しばらくこの温度を維持しておいてくれ」

「ゴゴォー」


 室温の維持はテンモクに頼めば問題ない。

 俺のほうは、早速レイピアを作っていこう。


「まずは刀身部分の作製だな……インゴットの品質がDだから、完成品の目標はB-か?」


 装備品を作る場合だけ、品質B以上の判定が少し変わっている。

 素材や消耗品は八段階だが、装備品に限りB-やB+といった区分が追加される。

 B-とB+の性能差はさほどないが、できる限りいい品質で仕上げたいと思うのが、生産者の意地というものだ。

 ……素材の品質が低すぎるからなんとも言えないのだけど。


「赤妖精シリーズはすべて火属性だから、使うハンマーは紅玉ルビーのハンマーでいいな」


 属性が付与されている素材を取り扱うときは、その素材に特化した属性道具を使ったほうがいいできに仕上がる。

 今回使う紅玉のハンマーを含め、宝石道具は属性特化道具の最たるものだ。

 耐久度が低いため頻繁に修理が必要で、修理素材に宝石が必要になるなどコスパはあまりよくない。

 それでも、武器のポテンシャルを引き出すため、上位の職人たちはそれに見合った道具を用意するものなのだ。


「さて、刀身の作製は完了。作業評価は……A判定!」


 このゲームでは生産作業に対して作業終了時、どれだけ上手に作業ができたかを評価される仕組みとなっている。

 この作業評価が、生産系スキルのレベルを上げていく上で重要なファクターとなっているのだが……聞いた話だとこの評価が伸び悩んでいて、スキルランクがなかなか育たないプレイヤーも多いんだとか。

 たぶん、使っている生産道具のランクが低いか、作ろうとしているアイテムの難易度が高いか、どちらかだろうけどそこまで口を出す義理はないからね。

 そこんところ、気がつくまで頑張ってもらいましょう。

 誰か、優しいプレイヤーがその辺を指摘してくれるかもしれないし。


「さて次は、ナックルガードと鍔を作っていくか」


 これは『赤妖精の腕輪』と『赤妖精の羽』を加工して作るので、割とサクサクできた。

 作業評価は勿論A。

 俺は、金属加工ができる【鍛冶】スキルのほか、木材加工ができる【木工】スキルも持っている。

 ちなみに、木工スキルももうすぐスキルマスターだ。

 腕輪の加工は【鍛冶】スキルの範囲だったけど、羽の加工は【木工】の範囲だから相互補完をしているんだよね。

 ほかにも【裁縫】スキルを覚えている裁縫士は、【皮革】スキルも覚えて皮素材を扱えるようにしている。

 俺も皮素材を扱う機会があるので【皮革】スキルは覚えているが、そこまでレベルは高くない。

 高くない、と言っても、あるスキルを育てるため、それなりにはスキルレベルを上げているんだけどね。


「さて、最後はグリップだけど……これは結晶をそのまま加工するだけだから楽勝かな」


 最後に残った結晶を紅玉のハンマーでガンガン叩く。

 それによって結晶も形を変えて行き、やがてグリップの形に変化する。


 これでレイピアに必要な部品がすべて揃ったことになる。

 あとは、これに魔力を込めて結合させれば……よし、完成だ。

 完成品の品質は、目標としていたB-に届いてくれた。

 あの屑素材からこれだけのものが作れれば、文句は言わせない。


 さて、そろそろ約束の時間だけど、まだきていないのかな?

 作業場の換気を行い、耐熱装備を普段の作務衣姿に切り替えて店舗部に移動する。

 すると、そこではダンとレイがおしゃべりをしていた。


「ダン、戻ってくるのが随分と早かったな」

「おう、ダンナ。聞いてくれよ、俺が入った赤妖精周回パーティ、めっちゃ回転早かったんだよ。その分、消耗品は大量に使うことになったけど、おかげで赤妖精素材がたっぷり手に入ったぜ。これで『赤妖精の双剣』を頼むわ」


 よっぽど良いパーティと組めたのだろう。

 ダンの表情はとても明るい。


「……うん、個数には問題なし。素材の品質も可もなく不可もなし。あとは納期だな」

「……やっぱり今夜は無理か?」

「無理。あと一時間もしないうちに寝るから」

「ホント、ダンナの営業時間は短いよな」

「悪かったな。明日からはさらに短くなるぞ」

「マジ? ……ああ、学生はそろそろ始業式の時期か」

「そういうことだ。なので、営業時間は夕方から夜にかけてだ」


 申し訳ないが、こればっかりはどうにもならない。

 学校が休みの日は、それなりに活動するから許してくれ。


「あれ、エイトさんも明日から学校ですか?」

「ああ、明日からだ。……その様子だと、レイも明日からか」

「はい。……ひょっとして同じ学校だったり」

「それはないだろう。地域差は多少あれども、学校の始業式の時期なんて大差ないだろ。それも春の始業式なんてさ」

「ですよねー。……あ、そうだ。『赤妖精のレイピア』って完成してますか?」


 いけないいけない。

 雑談に気をとられて依頼の品を渡し損ねてた。


「ほら、これが『赤妖精のレイピア』だ。最後に所有者設定を済ませれば、こいつはお前さん専用武器だよ」

「うん? ダンナ、『所有者設定』ってなんだ?」


 ダンが聞き慣れない言葉について確認してくる。

 説明はしなくちゃいけないし、ついでだからこの機会にすませるか。


「『所有者設定』って言うのは、生産ユニーク装備を使えるようにするための……認証みたいなものだ。生産ユニーク装備は、もともと依頼主しか装備できないようになっているが、『所有者設定』をすませることでその真価が発揮できる、みたいな?」

「みたいなって……具体的になにができるということはあるのか?」

「そうだな……一番便利な機能は、インベントリからの即時取り出しや回収機能かな」

「インベントリからの即時取り出しってのは何となくわかる。回収機能ってなんだ?」

「手元にない装備を一瞬で装備できる機能だな。たとえば、戦闘中に弾き飛ばされた武器を回収したり、修理に出していた武器を受け取りにいかずに回収したり、あとは……全身装備を生産ユニーク装備で固めてるなら、変身ごっこなんてこともできるぞ」

「変身ごっこですか!?」


 ここで、黙って俺たちの話を聞いていたレイが割り込んできた。

 反応したワードが変身ごっこのあたり、そういうものに憧れてるんだろう。


「具体的にどうすればいいんですか? 私、とっても気になります!」

「そうだな……基本的に全身分の生産ユニーク装備を準備して、かけ声とポージングをキメながらユニーク装備と置き換えれば変身っぽくなるんじゃないのかな」

「なるほどなるほど。……ちなみに、ほかの赤妖精シリーズを作っていただくことは……」

「可能だけど、素材の品質が悪すぎる。せめて品質Cで揃えてこい。『鉄の解体ナイフ』品質A+のをおまけでつけるから」

「わわ、ありがとうございます」


 レイに余っている解体ナイフを押し付け、話を本題に戻そう。


「……さて、話がそれまくってるから元に戻すぞ。レイの所有者設定を行う。……といっても、血を一滴、柄の部分にある宝石につければいいんだけどな」

「わかりました……これでいいんですか?」

「ああ、大丈夫だ。……そろそろかな」

「え? うわっ」


 ドッキリ成功。

 所有者設定が終わると、武器が光るんだよね。

 一回光って終わり、という味気ない演出だけど知らないとビックリする。

 ……俺も初めてのときは驚いたし。


「さあ、そのレイピアは名実ともにレイのものになった。動かしにくいとかがないか、確認してみてくれ」

「わかりました。それでは」


 店舗部の広いところでレイピアによる攻撃の型を披露するレイ。

 システムサポートが働いているとはいえ、なかなか滑らかな動きである。

 二分ほど動きを確認したレイは、少し困ったような顔で結果を告げる。


「ちょっと重心が手前側にある気がします。そこを調整してもらえると助かるんですけど……」

「わかった。すぐに直すからちょっと待っててくれ」


 レイからレイピアを預かり作業場で調整を行う。

 このゲームにおける重心などの調整は、システムウィンドウを開いて重心の位置を変えるだけだ。

 一分ほどで作業を終え、もう一度レイに確認してもらう。

 今度は問題なく扱えるようである。


「ありがとうございました! それによくわからないけど、なんだかうっすらと光ってますし」

「ああ、それか。ユニーク武器の場合、一定以上の品質になるとエフェクトが出るんだ。そのせいだから、あんまり気にしてくれるなよ」

「わかりました。それでは失礼しますね! 友達と一緒に新しい武器の切れ味を試してきます」

「いってらー。無理しないようになー」

「はーい」


 返事だけは良い感じでレイは去っていった。

 残されたのは、俺とダンのふたりである。


「なあ、あの子まだ初心者っぽかったけど、エフェクト武器なんて渡して良かったのか?」

「赤妖精のエフェクト武器ならそれなりに出回ってるだろ?」

「まあな。素体になる武器さえ手に入れば、強化でなんとでもなるし」

「そういうわけだ。このゲーム、PKはあるけど装備は奪えないし、なんとかするだろ、たぶん」

「投げ遣りだな、おい」


 さすがにそこまでは面倒をみていられないからなぁ。

 自力でなんとかしてもらうしかないだろうよ。


「それで、ダンナ。俺の分の武器はいつできそうなんだ?」

「明日は半日授業だから……早ければ夕方かな。できたら連絡するよ」

「わかった、楽しみに待ってるぜ」


 多少の波乱はあったけど、無事に納品も完了した。

 さて、ダンを追い出したらログアウトして寝るとしよう。

 それでは、おやすみ。

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