仮面鍛冶士は今日も装備を作る ~Braves Beat~

あきさけ

第一章 出会いは赤と紅に染まって

1.プロローグ


本日は3話投稿します

7時・12時・19時ごろ公開予定です

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 魔法炉の温度設定と温度を確認してみる。

 炉に火を入れてから十分な時間が経っているため、設定温度付近で温度は安定している。


「……これなら、もうウロコを入れてもよさそうだな」


 半ば無理矢理ではあったけど、仲間と一緒にボスと戦い手に入れた戦利品だ。

 普段から素材の扱いは丁寧かつ慎重に行っているけど、普段以上に大事に扱っている。

 ……一緒に戦ったのは事実だけど、俺はほとんど戦わずに相手の攻撃を避け時々反撃しているだけで、ボスの撃破は俺を連れ出した仲間たちがやってくれたようなものだったが。

 最後にボスから素材を剥ぎ取る作業は俺がやったし、それでチャラ……と考えておこう。

 ほかの皆はそれで満足していたようだから。


「さて、そろそろウロコを取り出して、成形かな」


 いま作っているのは、レイピアだ。

 最初の工程として、ウロコを溶かしてインゴットにするところから作業は始まる。

 十分に熱されたウロコを取り出し、型にはめ込んでハンマーで均一になるように叩く。

 本物の鍛冶作業なんて見たことがないし、当然やったこともない。

 でも、システムサポートのおかげで、ある程度はどのようにすればいいのかはわかる。

 あとは……半年間続けてきた経験に頼るしかないよね。


「……うん、無事インゴットの作製成功。品質もバッチリS評価だ」


 素材にしたウロコが品質Aだったのだから、一段階目の作業で品質をひとつ上げる程度はお手の物。

 これくらいできないと、鍛冶スキルマスターとは名乗れない。


「さて、ここからは根気のいる作業だぞ。このインゴット、常に熱した状態で叩かなくちゃいけないんだから」


 今回の素材の特性として『常に一定以上の温度を保ちながら加工を行う』というものがある。

 加工中に決められた温度より低くなってしまったら、品質が下がるか、最悪作製失敗になってしまう。

 裁縫で作る装備品はそこまで高い温度を要求されていないとは聞いたが、それでも耐熱装備一式で身を固めていないとダメな程度には温度を上げて作業しなくてはいけないとか。

 裁縫よりも高温を要求される鍛冶は、当然のように耐熱装備有りだが、それでも熱波ダメージを受けることになる。

 回復魔法で悠長に回復なんてしている暇はないので、HPポーションを飲み物代わりに使いながら作業をするしかない。

 ……さて、覚悟も決まったし、作業部屋の温度も上げて作業を開始しようか!


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「ふぅ、ようやく作業完了か。剣一本作るのに三時間かかるとか、割とやってられないな」


 作業部屋の時計を確認して、開始からすでに三時間が経過していたことを知る。

 今回作った装備の作製難易度は非常に高い。

 鍛冶スキルのレベルはカンストしているが、今回使用した鍛冶以外のスキルにはかなりの経験値が入っている。

 三時間気合いを入れて作製した装備の報酬としては……どうなんだろうな?


「テンモクもありがとうな。部屋の温度をキープしてくれて。おかげで助かった」

「ゴォー」


 テンモクは俺がゲームスタート時に契約したサポート精霊。

 サポート精霊は、ゲームスタート時にもらうことができるお助けキャラだ。

 その成長パターンはプレイヤー次第。

 戦闘に連れ歩けば、主人の戦い方を学んでサポートしてくれるようになるし、生産のサポートをさせればさまざまな手伝いをやってくれる。

 たとえば、主人が前衛アタッカーだった場合、後衛から回復魔法を使ってくれるようになるとか、攻撃がしやすいように敵を行動阻害するようになるとか、あるいは、純粋に魔法アタッカーになるとか、さまざまだ。

 俺の場合、完全に生産特化で育てているため戦闘はからっきしだが、生産関係ではゲーム内でも一二を争うくらいスキルが豊富になっていると思っている。


 なお、テンモクの名前は天目一箇神からとった名前だ。

 鍛冶がしたくてこのゲームを始めた俺にはぴったりの名前だと思う。


「おーい、作業音が聞こえなくなったけど、完成したのー?」


 作業部屋と休憩スペースを仕切っている扉の向こうから、女子の声が聞こえる。

 今回作ったレイピアの依頼主、レイ=リーフフィールドの声だ。


「レイピアなら完成した。いま持っていくから待ってろ」

「はーい! 遂に紅妖精のユニーク装備を手に入れられる!」


 相変わらず賑やかなんだよね。

 さて、換気中とはいえまだまだ暑いこの部屋から出て行きたいし、休憩スペースに移動するとしよう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「おー! これが紅妖精のレイピア!!」


 作ったレイピアを取り出し、レイに渡すと興奮したように掲げてみせた。

 喜んでくれるのは作者冥利に尽きるけど、危ないから刃物を振り回さないでほしい。


「これが紅妖精のユニーク装備……ね。エイト、これの装備名はなんという名前なのかな?」


 レイと同じように休憩スペースで待っていた女性プレイヤーが、レイに渡したレイピアの名前を聞いてくる。


「『紅玉妖精のフレイムレイピア』だったかな。『フレイム』の名前が示すように火属性が付いたレイピアですよ」

「そんな大それた名前だったのか。……ところで、レイが装備した後、背中から炎の翼みたいなエフェクトが出ていたが……あれは?」

「わからないですね。俺も装備したことがあるわけじゃないから」


 完成品の品質は最高品質であるS+まで上がっている。

 それが影響したのかもしれないけど、そこまで俺が面倒をみることじゃない。


「……それ、一部のユニーク装備で高品質品だけに出る特殊エフェクトだわ。いま調べたら品質S以上だった場合に出るんだってよ」


 休憩スペースにいた最後のひとり、男性プレイヤーがいま調べたことを教えてくれた。

 品質Sでつくのか、なら問題ないな。


「あのレイピア、品質S+だからなぁ。エフェクトが出てるくらいで大した問題にはならないだろう?」

「いや、大分目立つからな、あれ。それに、昨日倒してきたボスから出るユニーク装備の名前は『紅妖精のレイピア』らしいぞ?」

「……なんで名前が違うんだ?」

「俺に聞くなよ。俺だって、ネットだの掲示板だのから拾ってきた情報しか知らないんだから」


 だよなぁ。

 あいつは調べ物が早くて助かるんだけど、ネットに情報が無いものまではわかるはずもない。


「……仕方がないから運営に問い合わせてみるよ」

「そうしたほうがいいんじゃね。なんかバグでできた武器だったら嫌だしよ」


 大はしゃぎのレイから装備を取り上げて、SSスクリーンショットと一緒に問い合わせ窓口に連絡。

 五分ほどで問い合わせ内容は帰ってきた。


「……返信が来たぞ。結果は『仕様上決められた過程によって作成された武器なので問題ありません』だってさ」

「……マジか。っていうか、俺たちの武器もあんな風に光るのか?」

「光るんじゃないか? 同じシリーズを作っているんだし」

「……私はあまり目立ちたくないのだが……性能を考えると仕方がないのかね」

「えー、このエフェクトカッコイイじゃない。皆でおそろいの武器を揃えようよ。ね、エイト?」


 その言葉に苦笑を浮かべるしかない。

 俺の名前はエイト。

 VRゲーム《Braves Beat》で小さな工房を営むゲームプレイヤーだ。



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VRゲームもの、MMOというべきか、MOというべきかは悩みどころな感じ。

FF14がMMOなんだからMMOでいいのかな?

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