エピローグ

 剣を向け合い、二人はじっと動かない。

「全員、離れてて」

 デルフィが周りの者にそう言うと、シェラミーはくすりと笑った。

「あなたのそういう優しい所、好きよ」

 デルフィの顔が歪む。

「お前は、シェラミーを食ったのか!?」

 デルフィの言葉にシェラミーはゆっくりと首を振る。

「わたし達は少し、視界の入っている人の、考えている事が、映像として頭の中に浮かぶのよ。それはぼやけたイメージだけれども。わたし達は子供達に町や、その周辺を見張らせている。あなたがこの町に近付いて来ている事もわかったわ。そしてあなたの脳の中の映像も。あなたの名前を知ったのも見張っている子供から知ったのよ。知覚は共有できるからね」

「子供?」

 シェラミーは頷いた。

「えぇ、そう子供。それでね、わたしに影響を与えて、この姿を形作らせたのはあなたの〝想い〟わたしは誰も食べてはいないわ、と言ったら嘘になるけれど」

 そう言って首をすくめ、

「これは〝皮〟を被っている訳ではないの。わたしは特別なんだよ。わたしは五、六年食べなくても生きていけるの。そして純粋に、あなた達の言う所の虫だけ」

「わたしは、欠片を得たはずだ。お前がここにいた二人目なのか?」

 シェラミーはくすりと笑う。

「質問ばかりね。ま、友達だもの、ちゃんと教えてあげるわ」

 シェラミーがそう言った時、デルフィは歯を噛み締めた。

「わたしは一人目、初めからの一人目。ずっと一人だったわ」

 そう言ってから首を振り、

「いいえ、あなた達の感覚から言えば、一人目であり二人目であり三人目であり、いっぱいかな」

「茶化すな!」

 シェラミーは小さく笑う。

「わたし達はみんなで一つ。そして〝核〟自体を作っている。そして、わたし達以外は子供なの。わたしは一気に子供を増やす事が出来る。あの白い粉を出す子やブローチの子達ね。ドロップの成分を使わないと、駄々をこねる困った子達ね」

「みんな、ならアルザックさんや、おじさんの中にもお前は〝居た〟と言う事か?」

 シェラミーは、デルフィの言葉に頷いた。

「集合から離れると弱くなるんだけれど、それでも二つを剝いで、アルザックさんと宿屋の親父さんに入れたわ。わたし達自身は子供と違って増やせないの。だからとても大切なもの。核としての欠片は、デルフィだから上げたのよ」

 デルフィはシェラミーを睨みつつ、

「どうして、こんな事をするんだ……」

 デルフィの言葉にシェラミーは小さく笑う。

「話したのに、デルフィは納得出来ないのね。ならこうしましょう?」

 首をかしげる。

「わたしが〝神域の子〟だから」


 デルフィは呻く。シェラミーは微笑する。

「あぁ、素敵。あなたのその顔が、わたしが選んだ事の正しさを証明している。これはあなたを貪り食うより、ずっと美味しい事よ」

「もうやめろっ!!」

 デルフィが怒鳴る。

 シェラミーは、姿勢を正すと、目を細めた。

「あなたは去らなかった。最後の最後に気付いたの。あのまま去っていれば、わたし達、友達のままで居れたのにね」

「そんな事があるか!」

 デルフィの叫びにシェラミーは小さく呟いた。

「そう……ね」

 そして音を立てて空を斬る。

「今度は気絶なんかで済まないよ。確実に首を落す。だから全力で来なさい。これがわたし達の終幕エピローグ


 シェラミーは目を閉じ、そして幾度か深呼吸する。

 フェーネがデルフィに駆け寄ろうとし、デルフィは手でそれを制する。

「来ないでフェーネ。わたしだけで、やらなくちゃ」

 シェラミーは目を開ける。口元には笑み。サーベルの先がぶれる。デルフィには、それが二重に、三重に見える。僅かな白の気配。踏み込んだ。

 だがデルフィは自身のマントを引き剝がすと、シェラミーに覆い被さるように投げ付けた。

「惑わすものがなければ、惑わされない!」

 一閃。デルフィはシェラミーの背後に斬り抜ける。

「わたしは、お前を倒さなければいけない」

 ゆっくり振り返る。

 マントが二つに割け、覆い被さったものから剝がれ落ち、下から腹を切り裂かれたシェラミーが現れた。

「素敵、素敵だわ」

 ふらつく足で振り返るシェラミー。

「わたしの硬質の体を切り裂くなんて、凄いわね」

 デルフィは静かに言った。

「お前は何度か目にしたはずだ。これがわたしのフェルミナの力ヴィジョン。絶対に折れない剣だ。こんな能力しかないから、わたしは他のフェルミナから木偶でくと呼ばれている」

 シェラミーは首を振る。

「いいえ、あなたは木偶でくなんかじゃない。確りとやり遂げる事が出来る人、自信を持ちなさい」

「お前は何故?」

 シェラミーは小さく笑う。

「あなたはわたし達に近いの。そう、フェルミナが……」

「どういう事だ!」

 シェラミーは目を細め、そして閉じた。

「あぁ、ダメージを受け過ぎたみたい。ごめ……」

 そう言うと、体が白に染まって行く。

「待て! シェラ……」

 砂の様になって風に攫われて行く。そして小さなクリスタルのような物が落ち、砕けて散った。


 空の変調は直ぐに起こった。小さな虫の死骸が天からぱらぱらと落ち、やがて降り注ぐ。空の穴は閉まって行く。

 呆然と空を見上げる一行に、デルフィは言った。

「長い夢は終わりだ。この町は終わる」

 月の光は翳り、台地から見下ろす町は、闇に呑まれようとしていた。

「町に戻って、生き残りと食料を見付け、ここを出よう。この町はいずれ神域に呑まれる」

 そこに居た全員は、呆然とした表情で、デルフィの言葉を聞き、誰も口を開かない。やがて、俯き、重い足取りで、登って来た坂道へと向かう。

 デルフィもその後に続き、そして足を止め、振り返った。


 地面に落ちた、クリスタル、神域の子シェラミーの核の欠片。それを眺め、

「欠片は貰った。後はお前が持っておけ。友情の証だ」

 そう言って背を向けた。

 フェーネが肩の上でデルフィの頬に頬擦りをし、デルフィは胸元にある真鍮の懐中時計を強く握りしめた。

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