メリーゴーランド

「あるじよ、我とのデートは楽しいか?」


 昨日のことで味を占めたのか、それとも安全だと分かったからか、そのからかいネタまだ引っ張るのか。


「そうですね。カトリーヌのような美しい女性と一緒に歩くのは楽しいですね。

 ただ、出来ればもう少し安いもので勘弁してもらえれば助かるのですが。」


 気に入るものがなかったのか服に手を出さなかった分だけ少しましだが、思っていた以上のマナがリングから飛んでいく。


「女性が美しくあるには金がかかるのが道理よ。

 ただ、あるじに金がないのは分かっておるから、きちんと抑えておる。」


 いや、皿と美しさは関係ないだろ。


「カトリーヌには随分お世話になっていますし、これからも頼りにしてるのでそれなら仕方ないですね。もっと稼げるように頑張りますよ。」


 ここ数日のカトリーヌとの生活が実際楽しかったのは間違いないから必要経費だと思うしかないか。

 今までは1人でダンジョンに潜って、モンスターを倒して、帰って寝る。話すの店員ぐらいな孤独な生活だったからな。たまにおいしいものを食べることだけが楽しみな、ただ生きているだけの状態だった。


「期待しておるぞ、我があるじよ。」

 私も期待してますよ、カトリーヌ。




 周囲から浮いた赤色の装飾が目立つ中華料理屋の前で止まった。


「あるじよ、今日は屋台ではなく店での食事か。

 我に無駄遣いするなと言っておきながら、あるじも使うではないか。

 美味しいければ我はあるじと違って文句を言わぬがな。」


 まー確かに、必要なものが山ほどあるのに金が足りない状態で食費を上げるのは浪費と取られても仕方ない。


「ええ大丈夫です。美味しいと評判の店ですよ。」



「リュウさん、久しぶりアルね。その綺麗な子が噂のカトリーヌちゃんアルか?

 リュウさんもなかなか隅に置けないアル。」


 店に足を踏み入れた途端、満面の笑みを湛えた小太りのおじさんが出迎えてきた。店主のアルさんだ。


「お久しぶりです。今日は奥のテーブル空いてますか?」


「大丈夫、空いてるアルよ。リュウさんなかなか羽振りがよさそうアルね。」

 奥の個室に通された。


「えっと、カトリーヌは中華料理分かりませんよね?私が適当に頼みますね。

 炒飯大盛り2つとライス大盛り4つ、餃子6人前と酢豚4人前、麻婆豆腐4人前でよろしく。」

 出来れば一人前ずつ別の料理を頼んで色々な味を楽しんでみたかったが、それをやると流石に温厚なアルさんでも切れるよな。


「噂に聞いてたけど、リュウさん本当によく食べるようになったアルね。

 トロルの因子でも入れたアルか?

 順番に作ってるけど少し多いから待つアル。」


 アルさんは返事も待たずに厨房に戻って行った。



「ところであるじよ、このテーブルは何故二段になっておるのだ?」

 上の部分を軽く回転させながら聞いてきた。


 初めて見ると驚くし、遊びたくなるよね。自分も昔、回して遊んだのを思い出した。

「このテーブルの使い方はまず回転する上部の机に大皿をどんと置きます。そしてテーブルを回転させ自分の近くまで大皿を持ってきて、自分の小皿に分けます。

 今回は2人だけですけど大勢で食べるのに向いたテーブルですよね。」


「なるほどな、なかなか面白いことを考えるな。」

そう言ってまた回していた。




「リュウさん、注文の品はこれで全部アル。

 たくさん作って手が付かれたアルよ。」

 そう言って筋肉をほぐすように手を振りながらアルさんは空いた椅子に座った。


 同席したアルさんにカトリーヌが不思議そうな顔を浮かべていたので、

「そう言えば言ってませんでしたね。アルさんは中華料理屋の他に凄腕の情報屋と金貸しも営んでいる凄い人なんです。」


「リュウさん悪い人ね、その子にわざと伝えずに来たアルね。

 今のままだと吾輩胡散臭い料理人アル。少し手品を見せるアル。」


 アルさんは席を立って後ろを向いた。そして振り返った時には少し背の低く小太り丸顔でふさふさの黒髪から、背は高く筋骨隆々四角顔で金髪角刈りに変わっていた。


「この姿の時はアルフレッドと名乗っておる。」


 その後も後ろを向いて振り返る度に、儚そうな女性、よぼよぼのお爺さん、生意気そうな子供、それにカトリーヌの姿と様々に変化し違う名前を名乗った。


「凄いものだな、確かにこれならどこででも情報を集めれる、凄腕というのも頷ける。」


「ほら、最初からカトリーヌの名前も呼んでいたでしょ。私たちのことも既にそれなりの情報を得ていて、こういう風にさらっと子出して反応を見てくるんです。

 ちなみにアルさんはハテナカメレオンの因子を持つ亜人で、本当の姿と名前は誰も知らないと言われています。」


 いつもの格好に戻ったアルさんが、頭を掻きながら椅子に座った。


「いやー、吾輩が因子を取り込む前から生きている人なんて腐るほどいるアルから、姿や名前はそんな大層な秘密ではないアルよ。

 1億マナ払ってくれるなら、リュウさんにだって今すぐ教えるアル。

 ところで今日は何の用アルか?カトリーヌちゃんがいてもまだ吾輩の店を利用するほどの余裕はないはずアルね。」


 食事を中断して真剣な顔をしてアルさんの顔を見た。

「単刀直入に言います。私に1000万マナ貸してください、お願いします。」

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