大盛つゆだくで
じゅうじゅうと音を立て短冊切りにした玉ねぎが炒められている。
西暦の頃や上級市民が食べるような玉ねぎは直方体のブロックではなく球形らしいが、不便ではなかろうか?
かつては魔法のない世界で不便でも仕方なかったのかもしれないな。上級市民の方は調理する奴隷へのささやかな嫌がらせなのかもしれないな。何せ皮まであるらしい。
そんな嫌がらせ玉ねぎの値段が三等市民ですら買うのを少しためらう程すると言うのだから世の中おかしい。
まーでも、丸くないと玉ねぎではなく角ねぎだと思っているのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えながら灰汁を取っていた。
あー、この匂いは腹に来る。早く食いたい。
牛丼が後は盛り付けるだけになったのでカトリーヌを起こしに行く。
牛丼の匂いに釣られたのか鼻をひくひくさせていたので、ささやかないたずら心が湧いてきた。
牛丼の入った鍋を鼻先に近づけると鼻が鍋に近づいてくる。あっちに振り、こっちに振りと遊んでいたら。ベッドから落ち、ふぎゃっという断末魔の悲鳴を上げた。
これはまずい。なるべく音を立てないように気を付けつつ急いで台所に駆け込み、何食わぬ顔で鍋を持って部屋に戻った。
「おはようございます、カトリーヌ。もう夜ですけどね。晩御飯の時間です。」
カトリーヌは痛むであろう頭を撫でながら、何か納得いかないことがあるような面で周囲を見渡していたが、思い至るものがなかったのか諦めてちゃぶ台まで歩いてきた。
「おいしいものを食べる夢を見ていた気がしたが、あるじの牛丼の臭いのせいであったか。よき匂いよな。」
米を持ってきてどんぶりに盛り付ける。これまでの食べっぷりを見るにカトリーヌは大食漢なので大盛りだ。これでもお代わりをするだろうな。
「我が家の牛丼は紅ショウガ抜きで、ノーマルか、つゆだくか、少なめかだけが選べます。カトリーヌはどうします?」
「あるじ、何となく想像は付くが、すまぬがつゆだくとは何か教えてくれ。」
「牛丼の汁の量をどうするかということですね。少ないとご飯そのものの味を楽しめますし、多いとつゆの染みたご飯の味を楽しめますね。また触感もかわります。どれを美味しいと感じるかは個人の好みなので、お好きにどうぞ。
ちなみに私はノーマルが好きです。
お代わりも大丈夫なので、食べ比べてみるのもいいですね。」
少し悩みながら聞いていたが、お代わりで解決したようだ。
「それではあるじ、まずはつゆだくで頼む。」
いやー、食った食った。しかし最近どうも食事の量が増えた気がする。4倍ぐらいになっている。確かに運動量は増えてるが、カレーの時は召喚しただけだから、やはりあの状態になるとお腹がすくのだろう。
カトリーヌも満足したのか腹を擦っている。
「ところであるじよ、この家は風呂はないのか?」
風呂?ダンジョンを出る時に浄化がかかるから必要ないだろ。
「浸れるぐらいのお湯を用意しようと思えば、それなりのマナ消費量になりますし、街の外ではない家がほとんどですね。
中に入ったことはないから半分想像になりますが、街にいる市民なら蛇口を捻るだけだし、金銭的にも余裕があるので風呂があるのが普通かもしれませんね。精肉屋のおっちゃんは三等市民だから街に家も持っているし、風呂に入ると聞いたことがあります。」
「風呂は大変気持ちいいものなのだが、ないなら仕方ないか。
ならば銭湯という大きな風呂に入れることを売りにした店はないか?」
「うーん銭湯か、この辺りでは聞いたことないなー。浄化屋があるからいらないのでは?」
「娼館や連れ込み宿にもやはりないか。」
そこまで風呂が気になるのか。借りれる場所がないか余裕があれば探してみるか。
「娼館は浄化装置を付けないと営業許可が出ないと聞いたことがあります。避妊や性病予防に効果もあるらしいので、そりゃなくてはならないよな。
連れ込み宿も普通のところは浄化装置あるし、安いところは濡れタオルで軽く拭いて浄化屋に行くらしい。」
「経験談かえ?」
ニヤニヤするな。
「いや、そのような場所に行ったことはないですね。
まだ年齢的に未熟なのか、そういう性なのか分からないがどうも私は性欲が薄いらしい。魔力で欲望が増幅された状態でも、カトリーヌに迫ったり触ったりしたことが片手で数えれるほどしかないでしょ?美しい女性だとは感じますけどね。」
「なんじゃあるじはお子様であったか。それとも男の方が好きなのか?」
「それなら、欲望増幅で口説いていますよ。」
美しいと言われたからか、からかうのが楽しいからかむかつく笑顔をしていた。
反撃したい気持ちが生まれたが、カトリーヌに同じことを聞くとまずいことになることは流石に想像つくので耐え忍ぶ。
日本人は忍者の子孫らしいから耐え忍ぶことは得意らしい。魔法でないのに炎を吐き、首を一撃で刈り取たというからご先祖さまってすごい。その力が今にも残ってくれてればダンジョン探索も楽になるのにな。
「それではあるじよ、なるべく早く三等市民になって風呂付の家に住むぞ。
三等市民になるにはどうすればいいのだ?」
現実逃避してる間に性欲の話は終わっていたらしい。
「三等市民なら貢献度や犯罪歴などに寄って変動するけど基本的には1000万マナほど出せばなれるはず。
犯罪者は頭を弄られたりするそうなのですが、我々には関係ないでしょう。
しかし三等市民になった後は税額もかなり上がるので、それなりに稼げるように環境を整えてから上がりたいですね。
三等市民になってもやることは恐らくダンジョン探索のままでしょう。カトリーヌの魔法を頼れば色々な仕事があるかもしれませんが、それでは私が契約者としての義務を果たせませんしね。」
「ふむ、それでは今日は寝るまでこれからについて色々計画を立てるか。昨日のダンジョン探索では足りない物がたくさん見つかった。」
「ええそうですね。酷い探索でしたがこれを糧としなければ。」
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