糸色の亡き夕暮れ王

黒煙草

第1話



願えば、叶う


最低限の形で


悲観し、絶望しろ、人よ





──────────────────




────俺の世界で、世界大戦が始まった時、頭に響いたのはその言葉だった


酷くワクワクしたテンションで、脳内に語られた言葉は、寝起きの俺を不愉快にさせた


同族嫌悪とは言うが、血腥ちなまぐさいことは嫌いだ


だから願った


世界平和を




──────────────────


朝、俺の通う学校に着いた時には、学校が瓦礫が残る更地と化していた


何か、ミサイルでも降って粉々に砕け散ったような跡



…朝のニュースを思い出す


世界大戦が始まった


とはいえ、俺の国は影響がなく、むしろ兵器量産するために輸出を余儀なくされるほど儲かる予定だったらしい


将来的に、国の背負う借金の5割は消えるとか、そんな予想は聞いていたのだが…


何故、学校が無いのか?


ミサイルが降る天気予報も、サイレンもなかったのに…



校門前では朝早くに来ていた先生たちの姿が見えたが、少ない


「下がりなさい!家に帰って避難準備を!」


そう掛け声をするのは、俺の担任であ魚有うおり先生だ


皆からマグロっちとか呼ばれて、人気も高く、人柄で生徒たちの心を掌握していた先生だが…


「マグロセンセー、何かあったんですか?」


「あ……お、おお!椿!!生きてたのかお前!」


なぜ生死を聞かれたのかは疑問に思ったが、そのことに質問できずに先生は続ける


「いつもお前は、先生たちより先に来て校門を開ける生徒なのは有名だったが…今日、遅れてくるとは思わなかった…あぁ、良かった!」


俺の安否を確認するように抱き着いてきたが、理解できないので事情を聞き出す


「今日は少し寝すぎまして…何があったんですか?」


「あ、あぁ、そうだった…学校が更地になったのを私が確認した後に分かったことなんだが、米の飛ばしたミサイルが、制御不能になりこちらに飛んできたらしい…原因は未だ追求しているらしい」


生徒を不安にさせないためもあるのか、小声で俺の耳元で説明してくるが、俺も生徒なのを忘れてはいないだろうか?


「生徒である椿に言っても、仕方の無いことなんだがな…」


理解してるじゃないか…


「不安にならないと思ってな、とにかく帰りなさい、避難場所は分かっているな?」


マグロっちは俺をなんだと思ってるのだろうか…


しかし、今日は学校自体なくなってしまった為、すぐに帰ることにした





後々わかったことだが、先生生徒含む学校が物理的に廃校になり、被害者は50を満たさなかった



───────────────────


米のミスだと分かれば戦争の火種が、俺の住んでる国には来ない


それが分かれば、俺の通う学校の変わりは別の場所にある学校へ転校することになる


教科書や体操着なんかは、そちらから支給されること間違いないだろうな、と思い老けていると




テレビで、この国も参戦することになった


──────────────────


参戦が決まってからは、時間の進みが早かった


俺は高校三年生で、18歳になりたてなので戦争に参加することが決まる


母、そして弟と妹含む7人は涙ながらに送ってくれた




──…死地に向かうようなものだった


死と隣合わせの戦場


恐怖なんてものは、目の前の市街地に拡がっていた


「構えェェ!!」


手に持つ名も知らない銃を、簡単な説明だけの持ち方で構えて、引き金を引いた


迫り来るのは人、人、人


黄色から黒色、白色の人までが撃たれて倒れていく


簡単に人が死ぬなんて、恐怖でしか無かった



これで俺は晴れて殺人犯だなと悲観していると、隣の同じ年齢だろうと思われる青年が撃たれ、即死した


「……ひっ!」

「うわぁぁあ!!坂本ぉぉお!!」

「し、死んだぁぁ…もう嫌だァァあああ!!!」

「帰りたいぃぃぃい!!ああああ!!」


泣きじゃくる雄叫びと、怯えの断末魔が飛び交うと、若い人間は逃げようとしたが────



轟く銃声の中を走り逃げ、地面に伏して動かなくなった



死んだのだった


俺は、隣の人間が死んた事で恐怖のあまり動けず、立ちすくんでいたのだが…


地面に倒れてる生徒同様、動けば死んでいたことに間違いはなかった



「……ハァー…ハァー…っ!」


未だ指揮をしていた人間の声が聞こえず、貰った通信機で確認を取ろうとする


しかし、簡単な説明通りにスイッチボタンを押しても相手には届かなかった


「なんだよ…っ!何でだよ!!スイッチ押したら交信できるって言ってたじゃん!!」


使われているトランシーバーには周波数が用いられ、周波数を合わせると会話が出来るのは習っていたが


動揺する心

地に倒れ動かなくなった人

飛び交う銃声

銃痕を作り出していく壁


頭の中は恐怖を伝える情報ばかりで、そこまで頭が回らなかった


色々トランシーバーをいじった結果、俺は対戦国に見つかり捕虜となった




──────────────────


「名前は『乾拭 椿』、齢18、位は二等兵…間違いないな?」


鼻の高い金髪男性にそう聞かれ、椅子に縛りつけられた俺は首を下に、うなづいた


「宜しい、では知ってることは聞いたから…Hey!What to do with his disposal!」


英語は得意では無いので、最後の単語だけしか理解できなかったが


処分──…俺の処分を決めていたようだった



────所詮、一番下の二等兵だ


金髪の男性に鞭打たれながら甘い言葉で聞かれたことは


記憶にある自分の家族や学校の先生


銃を持たされた時に簡単な説明を受けた、自分の国の戦況と捕虜になった時の状況


それくらいだったんだ、何ら価値もない…死んでもおかしくはないはずだ


「(…ねえ、敵国の少年が捕まったと聞いたのだけれど?)」


女性の声がした


椅子に縛りつけられ、全ての歯を抜かれ、タオルを顔面に置かれて水責めされ、溺死寸前だった俺は牢屋の作越しに見える女性を見た



綺麗だった


まとめたブロンド髪と、幼い感じが未だ抜けない女性

碧眼はなにかおもちゃを探すように真っ直ぐで、瞳の奥に歪みを感じ取れた


着ている服がとにかく、とても、戦場に似つかわしくないほど


奇麗だった




「YES!MY LORD!It’s here」


LORDと言われた女性は牢屋越しに俺を見定め、考え込む


もしや助かる道ではないか?


そう思ってしまえば、次の行動は迅速だった


「へ…へい!は、はいねーふいぶ!ふばひ!!ふゅー…!は、はなたの為はら自分は…!何へもひまふ!!死ひはふはい!はふへへ!!」


歯のない口だけは達者な自分を、褒めてやりたい


しかし途中から母国語になってしまい、相手に上手く伝わったとは思えなかった


しかし女性は俺の言葉を聞き、飴と鞭兼翻訳の金髪男性から、何やら話をしていた


俺は何度も叫び、喉が潰れても叫び、ガラガラの声で泣きじゃくっていると──


「Shut Up!!黙れ捕虜の分際で!!」


一括され、俺は黙らされたと思ったが


「ねェキミ、死にたくナイの?」


女性の口から、そんな言葉が聞こえた


俺は黙れと言われたので、必死になって上下に首を動かす


「(私、汚いのは嫌いだし置きたくないわ)」


「(では、殺処分して兵士たちの食糧にしましょう)」


「(……確かに、確かにね?貴方の国の食糧難は口うるさく聞かれているのだけれど、私は汚いのが嫌いなだけよ?理解してるかしら??)」


「(……??つ、つまり…どういう事でしょう?)」


「(洗って、私の部屋に持ってきてと、言っているのだけれど?そこまで頭が回らないのかしら、貴方の位になると)」


「(し、失礼しました!!)」



全て敵国の言葉のはずなのだが、早口過ぎて1ミリも理解できなかった


ロードと呼ばれた女性は声を出す


「(早急に連れてきて、1時間遅れるごとに最前線が待っていると思いなさい……東でも、西でも…北がいいかしら?)」


「YES!!MY LORD!!」


「(返事だけは、あの少年と変わりないわね…フフッ)」


そう言い残し、ロードと呼ばれた女性は去っていった



「……チッ!おい!……解いてやる」


俺はなすがままに解放され、首に付けられた石の輪を引っ張られた


「ガッ!……ゴホッ!」


引っ張られた勢いで倒れるも、金髪の男に首輪を捕まれ、強制的に立ち上がらされる


「…誰が、倒れていいと言った?歩け!!」


恫喝による恐怖は、俺の脚を強制的に動かした




──────────────────


まるでランボーの映画さながらの、ホースから出る高い水圧を身体に浴びて、体を真っ赤にしながらも、パンツ1枚だけの状態で、豪華な扉が続く廊下を一人歩かされていた


牢屋から今いる所までの移動は黒い箱の中で、管楽器が入りそうなほど丈夫だった為、外観は見ていないが所々にある柱が石柱なので、相当、古い建造物なのだなと思った


太陽は真上から少し傾いてるくらいか…、しかし正確な日数を数えれるわけが無いので、家族の元を離れてから、何日たったのか覚えていない


「母はん…弟も体弱かったひ…戦場に出るこほは無ひへど、元気はな……うぁぁ…」


家族のことを思い出し、自然と涙が零れた


敵国の場所というのに、こんな悠長なことではまた拷問をしていた男性に殴られるのではないかと思い、ビクビクしながらも、指定された扉の前にたどり着く


「…ほ、ほほだよは…?」


早めに来たはずだが、豪華絢爛の両開きの扉の向こうからは音が一切しなかった


ナヨナヨした気持ちのまま扉をノックし、少し開けて中を覗く




──…暗い


まず一番に思ったのがそれだった


開けた扉の先は昼間というのに黒に染められていて、光が一切なく、俺を不安にさせる材料を増させた



正直帰りたいが、今いる場所がわからないので本国に帰れる自信が無い


ならばこそ、一歩進み出さなければいけない



「(……遅いわね、あの男は北へ行かせましょう…お父様)」


「(全くだな!!おい小僧!!座われ!)」


怒鳴られた気がした


ボーイとか、シットダウンとか言われた感じがしたので、俺は扉の近くで正座する


「(……始めましょう、準備を)」


扉が閉まり、俺は驚くがそんなことは無視され、俺は暗闇の中で、ず床ズリズリと這う音の後に平伏した


伏されたと言った方が正確だ




部屋の電気がつき、周りを見渡す


広い────


扉と同じく豪華絢爛な部屋内は、とにかく広く、シャンデリアが光を反射してこちらの目を細めてくる


顔を上げると席が3つあり、それぞれに人が座っていた


真ん中に偉そうな服着たおっさん

右に牢屋で会った女性

左に豪華な服きた太い女子



女性は先程、牢屋に会った女性で

女子とおっさんは見たことがなかった


「(準備は整ったようね…あなた、私のおもちゃを頂くわ)」


「(本体だけだ、若い男の四肢は久しく食っておらんのだ!譲らんぞ!)」


「(もうポテチ飽きたー、お肉食べたーい)」


三者三様、違った意見を出していた様だが理解も意味も分からない俺


だが、ふと疑問が残った


ひれ伏されたと思っていたが、覆われたように体全体を乗せられているのだ


正直、重い


早く退いてくれと言わんばかりで身体を揺らし、押さえつける人間を見た



「……ほへん……ほへんなはひ…!」


気付いてはいけなかった


押さえつけられていたと思っていた男の両足が無く、太ももの付け根を包帯で巻かれているだけだった


そのせいだろうか、抑える両手が力強く感じた


抑える男の顔は包帯で巻かれていて、片目しか見えない状態だった


「い…いや、ほれもごべん…」


歯が抜かれたのは俺も同じだ


本国の言葉だが、謝罪した



「ネエネエ!同ジ国同士、積もル話がアルかもしれないケド!コチラにリードを持ってきてチョウダイ!!」


俺の国の言葉を少し話せる女性は、押さえつける男に命令する


首輪にはいつの間にかリードが着けられており、両足のない男は肩にリードの輪を掛けて、腕立て伏せの要領で進んでいく


「な、何ひてふんだよ…待っへ…!」


必死に這っていく男をみて、俺は歩く


あまりにも情けないその姿は、いつか俺自身もなるのだろうかと思ってしまい


這っていく男とは逆に、止まってしまった


「……?止マルナ!ツバキ!!」


「ひ、ひやだ!!」


「(少年が何を言ってるかわからんが、拒んでいるのは手に取るようにわかるな…足を切れ!!)」



偉いおっさんが怒鳴ると、両脇に控えていたメイドさんや執事さんらしき人達が、ナタやノコギリを持って俺の両足を────



切断した


「フグッ!…ふ、ふぁぁぁあああああ!!!」



切断された両足は執事によって消毒、包帯を施され


切断した両足は、どこかへと持っていかれた


「はっへ!ほれの!!ほれのあひ!!」


悲しそうな顔をした、メイドさんや執事は俺の言葉に耳も傾けず、また両脇で待機した



何故こうも簡単に人道を背くようなことが出来るのか?


この3人の感性は狂っている


違いない


こいつらは────


「ツライデシしょうケド、コレも戦争のせいなのヨネ」


「(喧嘩を売る相手を間違えた、貴様の国を呪え!!)」


「(お腹減ったー)」



────突撃ぃー!!!


後ろの、扉の向こうから聞こえた、学校で聞いた声に俺は驚く


両開きの扉が開き、部屋の中に入ってくる本国に似た隊服を身にまとった人達は、入るや否や銃を構え、弾丸を放った


俺は上手く両腕を使い、声のした方に向くと『魚有先生』がそこにいたのだった


「は、はくおっひ…」


マグロっちは脇で控えていたメイドさんや執事は撃たずに、偉そうなおっさんやデブ少女の両足を撃ち抜いた


「メイドや執事は民間人だ!拘束し、生かすのだ!!同国の怪我人は手当を!!」




マグロっちは俺が捕まったことを聞き付け、救出を目的とした作戦を無理やり押し通し、実行したとか何とか




これで、俺は本国へと帰れると思ったのだが…


「fuck!!」


なんと、メイドさんや執事も隠し持っていた拳銃で応戦し始めたのだ


「(調子に乗るなよイエローモンキー共がァァァ!!!)」


どこに隠し持っていたのか、偉そうなおっさんがミニガン一丁を両手で持ち、俺の頭上を通り抜けてマグロっちの部下らしき人達を撃ち殺していった


俺は頭を附せざるを得なく、銃撃戦が止むまで地面と向かい合う羽目になった



──────────────────


「はぁー…はぁー…」


改めて背後を見る


草原が広がる星空の下で、燃え盛る、歴史がありそうなお城は轟轟と火柱を立てていた


運がいいのか悪いのか、両足を切断され、切り口に火傷跡が付いた俺は1人、ほふく前進の要領で這っていたのだった


城が燃える直前、何故か仕掛けられていたダイナマイトが起動し、爆風による勢いで開いていた両扉を抜け、窓ガラスをぶち破ったのだ


マグロっちの最期は分からなかったが、勇敢だった



俺は────



何も無い草原を────



草原の上で──────



死──────



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