勉強より戦争だろ?と…その日、一人の勇者は学園を制した
赤猫子猫
プロローグ「始まりの始まり」
仲良く手を繋ぎ、川沿いを微笑み合いながら歩く親子がいる。
母親の方は今年で三十くらいだろう。
息子の方は今年で六つくらいだろうか。
見ていて飽きのこない、第三者も微笑む親子の姿だ。
「ねえ、お母さん!」
「ん? どうしたの月華」
スーパーの買い物袋をぶら下げた母親が、目線を落とす。
息子は母親を見上げながら、ニッコリと笑うと、「あのさあのさあ!」と元気な声で言う。
「勇者って、どんな人なの!?」
「まあ。勇者について知りたいの? うーん……そうねえ。みんなに優しくて、みんなに厳しくて、いざとなったら助けてくれて、でも誰よりも一番であることが誇りで、背中がそれはそれは大きいのよ」
「おっきな剣とか持ってるのお!?」
「ええ、大きくて重い、とても美しい剣を持っているのよ」
母親は息子の質問に、息子と同じテンションで答えていく。
「すごーい!! 僕も勇者になりたいなあ」
息子は烏が群れをなして飛ぶ、夕方の空を見上げ勇者を夢見る。
「……なれるわよきっと」
母親は前を向き、微笑む。
「もし勇者になれたら……お母さんにポメラニアン買ってあげる!」
「あら、それは嬉しいわあ!」
母親の好きな犬を買うと約束した息子は、たまたま目の前に転がっていた石を蹴る。
蹴った石は遠くへ転げていき、散歩中の犬の足に当たった。
犬は散歩の邪魔をされたと勘違いしたのか、息子を見ると突然と吠えだす。
「やっちゃったああ!! お母さん違う道から帰ろう!」
「え? ああ、ちょっとお!」
息子は母親の手を引いて走り出す。
「僕は勇者だあ! お母さんを守るぞお!」
「もう。そんな早く勇者にはなれないわよ……」
母親は呆れながらも、何処か幸せそうにため息を吐く。
息子は前しか見えておらず、ただひたすらに走り続けている。
ーーその姿はもう既に勇者である。
前だけを見て、止まることのない。
小さな勇者は、大事な家族のため、前に立って走るのだ。
(……この子ったら。前しか見えていないのね。ごめんね、犬さん。私のお願いでここは、怒りを抑えてくれないかしら?)
「ワンッワンッ! ワッーークゥゥン……」
母親の声が届いたかのように、犬は突然鳴き止み追いかけることをやめる。
母親は「ありがとう」と、小さく口を動かすと犬に微笑んだ。
そんなーー
夏の夕方が良く似合う『勇者』と『女神』の親子をこの後見ることはもう……誰一人無かった。
◆◆◆
「さてさて、みんなに集まってもらったのは他でもない。我が学園の今後のあり方についてだ」
五尺程の長テーブルと、オフィスチェアが十個。
その中で、唯一窓側に置かれたチェアに腰掛け、肘をついては足を組む男がいる。
純白の長髪に、スーツ、赤ネクタイと身だしなみがあまりよろしくない。
だが、しかしーー
そんな男は日本の教育機関において絶対的な影響力を持っている。
「私は、この学園のそもそものコンセプトを全てひっくり返す必要があると思っている」
「ほう……ひっくり返すと? 学園長、その費用は何処から出ると?」
経済担当の中年男が噛み付くように問う。
「簡単ですよーーここは私立ですよ?」
と、学園長ではなく色気のある科学担当の女が答えた。
私立である梓学園は、授業料等が日本トップクラスで高く、そして奨学金制度が効かないため、お金持ちの学園とも呼ばれている。
学園のコンセプトをそのままひっくり返すほどの費用など、余裕で眠っているーー
「でもひっくり返すと言っても、どうするよ?」
「そこが私も知りたいところですねえ……」
国語、数学担当の顔が瓜二つの男二人が首を曲げる。
しかし曲がった首はすぐに戻ることになる。
誰が予想できたか、馬鹿げたコンセプト変更ーーいや、そもそもの教育においての大改革に……。
「そもそも、もう勉強ができたら良い時代じゃない。勉強はそこそこできたら良いんだーーつまり。来年から我が学園はーー『異能力学園』として、素晴らしい個々の能力を上げる学園とする」
教職員全員が、次の瞬間総立ちする。
「そ、それはどういう!?」
「確かに近年……異能力者が増え続け、魔力の普及と正常化が進んで入るがーー」
「ならば、私がどうしてこの学園の教職員を全員……異能力のみで固めていると?」
「「ーーそれは」」
「それはつまり、この学園を後に異能力学園として、教育に大改革を巻き起こすつもりでいたからだ。でなれければ、わざわざ異能力の教職員を見つけ、多額の移籍金をついで大学教授から国際研究機関務めのお偉い方々を集めない」
学園長は嫌味を交えながらも説明し、理解はしたかと言わんばかりに掌を教職員全員へ向ける。
「さあーー大改革を始めよう。異能力学園……『梓学園異能力特化型制度』の爆誕だ」
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