第204話 握手

「初めまして、ギルドの依頼を見たよ」


 すまし顔で近寄ってくる男。フレンドリーに差し出された右手を、速見は警戒しながら握りしめた。


 其の瞬間、男がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


 握り締めた男の右手から伝わる尋常ならざる力。明らかに握手の力ではない。一般人なら拳が潰れていてもおかしくない・・・・・・。


(試しているのか? この俺の力を)


 わからない。


 しかし、このまま舐められているのも癪だった。


 速見は神経を集中させ、万力を込めて握り返した。容赦はしない。手から伝わる力が、目の前の男に対して手加減が必要ない事を知らせていた。


 互いの力量を測るように万力で締め付け合う二人。たらりと一筋の汗が速見の額から流れ落ちた。


 魔族の力を持ってしてなお、目の前の男の力は計り知れない。


(・・・コイツ、本当に人間か?)


 速見の手の骨が、ミシミシと悲鳴を上げ始めた頃、男はパッと手を話した。


「おっと、済まなかったな。合格だ、流石は魔王を討伐しようとするだけの事はある・・・・・・俺の力とこれだけ張り合える奴は久しぶりだ」


「・・・いい加減にして欲しいね。魔王と戦う前に手が折れちまうとこだ」


 速見が皮肉を言うと、男は悪戯っ子のような表情で肩をすくめた。


「この程度で手が折れるなら、もとより魔王討伐など無理だ」


 正論だった。


 速見はニヤリと口角をつり上げる。


「人間のくせにノコノコと魔王討伐に名乗り上げる命知らずの名前を教えてくれるか?」


 その言葉に男は無骨な笑みを浮かべながら再び手を差し出した。


「俺の名は ”ウィリアム・J・ビルドゥ” 。魔王を討ち滅ぼし、いずれ世界最強と呼ばれる男さ」



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