第196話 里長

「・・・・・・ノアを救いたい。手を貸してはくれないか?」




 深々と頭を下げる速見。その様子を見て、ミルは端正な顔の眉間に深いシワを寄せて、深く息を吐いた。




「ハヤミ殿・・・・・・もちろん私もノアちゃんの事は心配です。すぐにでも動きたい気持ちはある・・・しかし、相手が相手な以上、下手な手は打てません」




「魔王サジタリウス・・・か。ミル、魔王サジタリウスが復活してからどれくらいになるかわかるか? それと、今世界がどうなっているのかも、知っている範囲でいいから教えてもらいてえんだが・・・・・・」




 速見の質問に、ミルはキョトンとした顔をした。




「魔王サジタリウスが・・・・・・復活? 申し訳ございません。其の質問にどんな意図があるのかはわかりませんが・・・、魔王サジタリウスが一度死んで蘇ったなんて話は聞きませんし、今の魔王以前に、”サジタリウス”の名を冠した魔王が存在していたという記録はありません」




「・・・・・・それは本当か?」




「ええ。私も世間の事情に詳しいわけではありませんが、確かな情報です。それに、今の魔王が君臨してから少なくとも200年、他の魔王が台頭した事はありません」




「200年・・・・・・だと?」




 自体は速見が考えていたよりも大事になっていたようだ。




 速見のこめかみから、つぅーっと、一筋の汗が流れ落ちたのだった。


















 里に戻った二人。ボロボロな二人の姿を見て、他の森の民達は何事かと駆け寄ってきた。 二人を治療しようと提案した女性をミルが手で制する。




「治療は結構です・・・・・長老はご在宅でしょうか?」




 ミルの問いに、森の民の女性はコクリと頷く。




「ありがとう。事情はまた後で説明いたします・・・・・・まずは長老と話をしなければ」




 最後は自分に言い聞かせているかのような小声だった。




 ミルは何かを決心したかのような表情をして、速見についてくるようにと合図をした。




「・・・里長にノアが攫われた事を説明するのか?」




「ええ、私一人の助力では難しいでしょうから・・・・・・。それに、魔王サジタリウスについては、長老から話を聞いた方が早いでしょう」




 そんな話をしている間に、二人は目的地にたどり着いた。




 里の中でも大きめな(しかしかなりシンプルではあるのだが)家、里長が住むという家の木製ドアを、ミルが控えめにノックする。




「・・・入りなさい」




 中からしゃがれた声がした。ミルが静かにドアを開ける。




 ドアを空けた其の先に待っていたのは、大きな椅子に腰掛けたシワシワの老人であった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る